矢崎粟は首を振って笑った。「矢野夫人は意地が悪いから、これからどんな策を弄してくるか分からないわ。もっと気をつけないと」
その後、矢崎粟は矢野夫人が南西の呪術王に呪いをかけてもらおうとした一件を全て話した。矢野朱里はそれを聞いて歯ぎしりするほど腹が立った。
矢野朱里は顔を曇らせて言った。「相変わらず冷酷な人ね」
子供の頃、言うことを聞かないと、澤蘭子に澤家へ送られた。
当時、澤家は山村に住んでいて、村はとても辺鄙な場所にあった。澤家の人々は彼女をひどく虐待し、食事を与えないだけでなく、家事もさせた。
洗濯、料理、掃除、鶏の世話。
言うことを聞かないと、澤蘭子の兄に竹の棒で叩かれ、家族に言うなと脅された。
最後には、矢野朱里が矢野家に戻ってから必死に祖父母に電話をかけ、ようやく二人は澤蘭子のしたことを知ることになった。
その後、矢野朱里は矢野家の老夫婦に引き取られ、本邸で育てられることになった。
矢野朱里は悲しげな目で言った。「もし両親が生きていたら、きっと彼女を厳しく懲らしめたはずよ」
矢崎粟は彼女の頭を撫でた。「大丈夫、これからは私が守ってあげる」
自分がいる限り、絶対に澤蘭子に矢野朱里を虐めさせない。
矢野朱里は感謝の眼差しで親友を見つめ、にっこりと笑って言った。「あなたがいてくれて本当に良かった。いなかったら、どうすればいいか分からなかったわ」
東京に戻ってきて、すぐに落ち着ける場所があるなんて、本当に良かった。
矢崎粟は彼女に微笑んで言った。「そうね、私がいて良かった。私みたいな良い友達がいて、あなたは羨ましいわ」
そう言うと、二人は同時に笑い出した。
矢崎粟は矢野朱里にビールを注ぎながら尋ねた。「帰国後、何をするか決めた?」
矢野朱里は一気に飲み干してから首を振った。「まだよ!」
決心がついた時点で、すぐに荷物をまとめて帰国してしまい、その後のことは全く考えていなかった。
矢崎粟は笑った。「じゃあ、私のスタジオに来ない?ちょうど美人で実力のあるマネージャーを探してたところよ」
矢野朱里の目が輝いた。「いいわね、私は海外で経営学を学んでいたから、専門も合ってるわ」
これなら、これからの生活にもっと自信が持てる。
親友のスタジオなら、粟は絶対に自分を粗末に扱わないし、二人で力を合わせれば、もっとやる気も出る。