489 傷跡なし

医者は懐中電灯を持って、矢崎美緒の顔を注意深く見たが、やはり傷跡は見つからず、ため息をつきながら首を振って言った。「お嬢さん、外傷は全く見当たりませんね。他の検査を受けてみてください」

二人は検査を終えると、伝票を持って再びこの医者のところへ戻ってきた。

医者は検査結果を注意深く見て、非常に困惑した様子で言った。「本当に殴られたんですか?怪我の痕跡が全くないのに、どうして痛むんでしょうか?」

夜遅くに、この二人は自分を馬鹿にしているのではないだろうか?

こんな患者は初めて見たという顔だった。

小林瑞貴は目を丸くして、「絶対に間違っています。痕跡がないなんてありえません!私は強く蹴られて、吹き飛ばされたんですよ」

今、胸全体が痛く、足も痛かった。

背中を打ちつけた場所も、ひどく痛んでいた。

これで痕跡がないだって?

矢崎美緒も泣きながら言った。「先生、私もすごく痛いんです!」

医者はため息をつき、「本当に傷跡は一つも見当たりません。外傷も内傷もないのに、どうやって治療すればいいんでしょうか?」

小林瑞貴は冷たい声で言った。「私の体は確かに痛いんです。あなたたちに分からないのは、あなたたちの問題でしょう。鎮痛剤を出してください!」

医者は眉をひそめたが、何も言わなかった。

矢崎美緒も涙を浮かべながら、「先生、私の顔は唐辛子水がついたみたいに、ヒリヒリして、すごく痛いんです」

彼女は手で顔に触れ、また涙を流した。

医者は仕方なく、「分かりました。鎮痛剤と消炎剤を処方しておきますので、お帰りになってから服用してください」

それ以上は、本当に手の施しようがなかった。

帰る前に、医者は咳払いをして、遠回しに言った。「薬を飲んでも痛みが続くようでしたら、精神科を受診してみてはいかがでしょうか。そちらで治るかもしれません」

そう言うと、次の患者を呼び入れた。

その場に残された小林瑞貴と矢崎美緒は一瞬固まり、診察室を出てから気づいた。

医者の言う意味は、この痛みは全て彼らの想像だというのか?

二人は考えれば考えるほど腹が立ったが、診察室に戻って反論する勇気もなかった。結局のところ、検査結果は全て正常を示していたのだから。

矢崎美緒は車の中で軟膏を塗ったが、ほんの少しの間だけ楽になり、すぐにまた刺すような痛みが始まった。