507 二度と会わない

ここまで聞いて、矢崎粟は紙に文章を書き、矢野朱里に渡した。

矢野朱里はそれを読んで、少し驚いた。

しかし、彼女は矢崎粟の言う通りにして、電話の向こうに向かって言った。「おじさま、私はこれからずっと国内にいます。」

矢野寿は尋ねた。「森田廣のことは追いかけないのか?」

矢野朱里は口を尖らせて、「彼とは完全に別れました。これからは互いに干渉しないことにしました。」

矢野寿は少し驚いて尋ねた。「どうしたんだ?」

彼は知っていた。この姪は亡くなった弟と性格がよく似ていて、一度決めたら最後まで貫く、頑固な性格だということを。

なぜ突然、考えを改めたのだろう?

矢野朱里は愚痴を言った。「森田廣は部下と怪しい関係があって、私に隠れていろんなことをしていたんです。やっと分かりました。彼はクズ男です。もう彼のことは追いかけません。恋愛問題は、切るべき時にはきっぱり切らないといけません。」

最後の一言は、特におじさまに伝えたかったことだった。

おじさまはまだ知らないだろうけど、矢野朱里には予感があった。おじさまはすぐに分かるだろうと。

矢野寿の朗らかな笑い声が聞こえてきた。「朱里も随分成長したな。おじさんは誇りに思うよ。森田家は混乱しているし、森田家の息子も良い縁談の相手ではない。見切りをつけて良かった。これからは相手を見る目を養うんだ。」

矢野朱里は口を尖らせた。おじさまこそ見る目を養ってほしい、そうすれば澤蘭子をそんなに可愛がることもないのに。

矢野朱里は深呼吸をして答えた。「分かりました。ありがとうございます。でも今は恋愛に溺れたくありません。矢野家で働いて、自分を鍛えたいと思います。どうでしょうか?」

矢野家で働くというアイデアは、矢崎粟が紙に書いたものだった。

矢野寿は少し驚き、姪が働きたいと思うとは予想していなかった。しばらく考えてから答えた。「それは後でな。今はちょっと都合が悪い。」

矢野朱里は意図的に不満そうに言った。「矢野徹は会社に行けるのに、私は行けないなんて、ひいきですよ。」

矢野寿は笑いながら言った。「彼とは比べものにならないだろう?心配するな、おじさんは約束したことは必ず守る。適切な機会があったら会社に入れてやる。朱里は良い子だから。」