彼は我儘になれない、矢野家のことを考えなければならない。
家主として重責を担っているのだ。
矢野朱里は溜息をつき、「そうだったんですね。でも叔父さん、なぜ当時澤蘭子と結婚したんですか?おばあちゃんが言うには、もっと相応しい人がいたのに、叔父さんは魔が差したように彼女と結婚したって」
澤蘭子は山村の娘で、学歴も低かった。
容姿は悪くなかったが、矢野夫人としての基準には遠く及ばず、性格も良くなかった。
もし矢野寿が偶然澤蘭子と出会わなければ、二人は一生交わることもなく、結婚などありえなかったはずだ。
矢野寿は目に悔しさを滲ませながら、ゆっくりと語った。「私は呪術をかけられていて、澤蘭子を見ると思わず惹かれてしまい、他の女性には嫌悪感を覚えるんだ」
澤蘭子の前でしか、心が動くことはなかった。