矢野常は我に返り、立ち上がって拍手を送った。
粟は本当に凄い、彼女が参加するプロジェクトは必ず成功する。それこそが彼の心を最も揺さぶる点だった。
しかし、二人はもう昔には戻れない。
ステージの下から拍手と歓声が沸き起こり、現場のスタッフも矢崎粟たち三人を誇らしく思った。
矢野常は後悔していた。かつての矢崎粟の優しさを大切にしなかったことを。
配信を見ていた人々も反応し始めた。
【粟ちゃん最高!】
【三人チーム必勝!】
【絶対勝てると思ってた、やっぱり勝ったね。】
【粟ちゃんの一生ファンになる、永遠に粟ちゃんのファンでいる、粟ちゃん大好き。】
【すごすぎる!】
【想像もできないような展開だったのに、本当に実現しちゃった。】
【うぅ、感動した、粟ちゃんってどうしてこんなに凄いの。】
この配信は多くのeスポーツスタジオも見ていて、矢崎粟の放ったあの一発を見たとき、彼らは心が躍った。
プロとして、あの一発の実力がどれほどのものか分かっていた。
矢崎粟を自分のスタジオに引き抜けたらいいのに。小島様に匹敵する競技のプロを育てられるかもしれない。
矢崎美緒は矢崎粟たちを睨みつけ、拳を握りしめた。
「パキッ!」
矢崎美緒は痛みで叫び、指を見た。
彼女が最近したネイルが根元から割れ、血が流れ出していた。その瞬間の痛みで死にたくなるほどだった。
しかし周りの人々は皆、矢崎粟たち三人の勝利に注目していた。
このチャンピオンを獲得したことで、今夜の豪華客船でのパーティーに参加できることになる。田中凛は興奮で顔を輝かせ、後で司会者が何を言っているのかも聞こえないほどだった。
司会者はステージ上で総括を述べ、今回の番組収録の終了を宣言した。
矢崎粟たちもクルーズのチケットを手に入れた。
一行は放送スタジオを出て、興奮と笑顔に満ちていた。
矢崎美緒を除いて。
森田輝は熱心なファンのように矢崎粟の傍を歩きながら、「粟、君たち本当にかっこよかった。今回クルーズパーティーに行けるのも、君たちの頑張りのおかげだよ。」
田中凛も笑顔で頷いた。「そうそう、粟の最後の一発がなかったら勝負は分からなかったよ。粟に引っ張ってもらってありがとう。」