529 両者の対峙

矢崎粟は小林哲の躊躇を見て、少しも意外に思わなかった。

彼女は笑い声を立てた。「ほら見て、私がやっていないと言っても、意味がありますか?あなたは全然信じないでしょう。だったら、なぜ私に聞きに来たんですか?」

「私は...」小林哲は言葉に詰まり、何も言えなくなった。

矢崎粟は続けた。「あなたの心の中ではもう決めつけているくせに、わざわざ私を問い詰めに来たのは、この件を大きくしたいだけでしょう?大騒ぎになれば、私が認めなくても、あなたたちは気が晴れるわけですよね。」

彼女の鋭い眼差しは、まるで鋼の刃のように小林哲に向けられた。

小林哲は一歩後ずさり、頭を下げて矢崎粟の視線を避けた。

この時、彼の心も混乱していて、誰の言葉を信じればいいのか分からなかったが、矢崎粟の言うことにも一理あると感じていた。