彼らは本当に矢崎粟に株式を持ってほしいと願っていた。
小林悠一と小泉西も期待の眼差しで矢崎粟を見つめた。
田中千佳の顔に、一瞬の嫉妬が浮かんだ。
矢崎粟はしばらく考え込んで、「この株式を私にくれるということは、私に処分権があるということですよね?」
「そうだとも」小林潤は顔を明るくして、すぐに答えた。
矢崎粟は言った。「では、この株式から生まれる収益は、孤児院に寄付することにします」
「それは...」澤田霞は躊躇いの表情を浮かべ、言葉に詰まった。
そんな大金を矢崎粟は簡単に寄付すると言い出した。これは小林家との関係を一切持ちたくないという意思表示だった。
澤田霞は少し心を痛めた。
小林潤は頷いて、「それがお前の考えなら、我々はそれを尊重しよう。今年からその金額をお前の名義で寄付することにする」
田中千佳は怒りで目が真っ赤になった。
あれほどの大金を、簡単に寄付してしまうなんて。矢崎粟が要らないなら自分にくれればいいのに、なぜ見知らぬ人にあげるの?
矢崎政氏三兄弟の目にも失望の色が浮かんだ。
小林潤は続けた。「長男、お前は公告を出して、我々小林家が小林美登里とすべての関係を断ち切り、株式を取り戻すことを正式に発表しろ。それと、小林家と矢崎家のプロジェクト提携も停止だ。今後は両家の協力関係もなしだ」
小林悠一は頷いて、「はい、明日にでも手続きします」
これを聞いて、田中千佳はついに我慢できなくなった。
小林家の中で、彼女は小林美登里と最も仲が良かった。もし小林美登里が本当に小林家から追放されたら、彼女は今後孤立無援になってしまう。
義姉と小林亜香里に虐められるのではないか?
そう考えれば考えるほど、田中千佳は不安になった。
彼女は急いで口を開いた。「お父様、この件はそんなに急ぐ必要はないのでは?もし小林美登里が少し経って後悔して、小林家に戻って来て許しを請うたら、声明は無駄になってしまいます。もう少し考えてみてはどうでしょうか?」
小林昌も言った。「そうですよ、お父様。妹にもう少し考える時間を与えましょう!私たちは皆家族なのですから、ここまでする必要はありません。数日経てば妹も考え直すかもしれません」
小林家と矢崎家のプロジェクトは彼が担当していた。もしプロジェクトが停止されれば、彼の手元の仕事がなくなってしまう。