矢崎政氏は足を止め、苦々しい表情を浮かべた。
母親は本当に扱いにくい存在だった。何もしなければ母親に叱られ、進んで手伝おうとしても叱られる。一体どうすればいいのだろうか?
使用人たちは片付けた大きな箱を次々と階下へ運んでいた。
矢崎弘は何も言わず、大きな箱を持ち上げて外へ向かった。
外には既に車が用意されているはずだ。車に積み込めばそれでいい。
とにかく小林美登里が怖いので、挨拶もせずに荷物運びを手伝おう。そうすれば母親も早く出て行けるだろう。
矢崎若菜は車椅子を横に少しずらし、会話にも加わらず手伝いもせず、ただ静かに傍らで見守っていた。
彼の足の怪我はまだ治っておらず、何も手伝えない。母親を怒らせたくないので、存在感を薄めることしかできなかった。
矢崎美緒は三人をじっと見つめ、傍らの矢崎政氏に近づいて言った。「四兄さん、私と母が引っ越すの。時々私たちに会いに来てね?」
そう言って、自分では魅力的だと思う媚びた目つきを送ったが、矢崎政氏は吐き気を催しそうになり、耐え難そうな表情を浮かべた。
矢崎政氏は言った。「近づくな。お前を見ると吐き気がする。」
そう言うと、彼もスーツケースを一つ持ち上げて外へ向かった。
家には使用人が多く、本来なら若旦那たちが手を出す必要はなかったが、矢崎政氏と矢崎弘は暇を持て余していたので荷物運びを手伝い、10分もしないうちに荷物は全て運び終わった。
矢崎美緒は小林美登里を支えながら、ゆっくりと外へ向かった。
小林美登里はハイヤーを見て、中が荷物でいっぱいなのに気づくと、眉をひそめて矢崎弘に向かって言った。「車を出して、私たちを送りなさい。」
彼女は後ろの使用人たちを見て言った。「あなたたち5人も私について来なさい。私名義の別荘に住むのよ。私の身の回りの世話をする人が必要だわ。」
「はい!」使用人たちは顔を見合わせ、目には不満の色が浮かんでいた。
彼らももちろん矢崎家の別荘に残りたかった。外に出ればどんなことが起こるかわからない。
仕方なく、矢崎弘は運転して小林美登里を送っていった。
大勢の人々が去ると、矢崎政氏はようやくほっとして、傍らの矢崎若菜に言った。「三兄さん、すごく気が楽になったよ。大きな荷物が取れた感じだ!」