585 手下の敗将

夏目博が思いもよらなかったことに、矢崎粟のスタジオは本当に彼を受け入れてくれた。

二日後、テレビドラマの出演者リストが公開され、男性第二主役の役を夏目博が獲得した。

矢崎家の芸能人である安藤昭は激怒し、メイクルームを行ったり来たりしながら、「オーディションの時、近藤監督は明らかに私を気に入っていたのに、なぜ役を夏目博に与えたんだ？あの忌々しい夏目博、また邪魔をしに来やがって！」

彼のマネージャーである永井春貴は眉をひそめ、「落ち着いて、近藤監督に電話してみよう。もしかしたら何か間違いがあるかもしれない」

彼は内心動揺していた。直感的に間違いではなく、何か予期せぬ事態が起きたのだと感じていた。

「早く電話しろよ！」安藤昭は彼を睨みつけ、怒鳴った。

夏目博は自分の敗北者なのに、どうして男性第二主役の役を手に入れることができたのか？

役を失うことはそれほど重要ではない。夏目博の前で面目を失うことこそが重要だった。

思い返せば、自分が矢崎家に来たばかりの頃、夏目博は矢崎家の人気俳優として育成されていたのに、結局は自分に追い落とされたではないか？

永井春貴は電話をかけ、話を進めるうちに表情が悪くなっていき、最後には怒りながら電話を切った。

「くそっ、近藤正のやつ！約束を破りやがって！」永井春貴は歯を食いしばって言った。

安藤昭は急いで尋ねた。「向こうは一体何て言ってたんだ？まさか本当にあのバカな夏目博を選んで、俺を選ばないっていうのか？」

永井春貴は顔を曇らせ、「近藤正は、もう夏目博を男性第二主役に決めたと言って、私たちに男性第三主役をやる気があるかと聞いてきた。私は断った」

知名度から言えば、安藤昭は何本もの作品で主演を務めており、どう考えても男性第二主役クラスなのに、どうして男性第三主役を演じられるだろうか？これは安藤昭の面子を踏みにじるようなものだ。

「人を馬鹿にしすぎる！」安藤昭は拳を固く握り締め、目は怒りで赤くなっていた。

彼は映画出演が多く、このドラマはテレビドラマ界への進出を試みる機会だったのに、夏目博に先を越されてしまった。これをどうして甘んじて受け入れられようか？

永井春貴は恨めしそうに言った。「私が思うに、夏目博は矢崎粟のスタジオと組んでから、運が良くなったようだ。矢崎粟も一体どんな手を使って近藤監督を説得したのか」