彼女の夫は林家の社長で、投資のために少しばかりの金を出すだけだった。
「それはちょっと…矢崎家のタレントに暗示を与えてしまいましたから」近藤監督は心が動いたものの、やはり断った。
矢崎家の要求は非常に多く、投資を増やせば必ず男性二番手の出番を増やさなければならず、これは彼にとっても悩ましい問題だった。
幸いなことに、この件はまだ正式に決まっておらず、まだ考え直す余地があった。
岡本棉は少し考えてから、さらに言った。「次の脚本の独占権はあなたに取っておきますよ。これでいいでしょう?近藤さん、調子に乗らないでください。あなたが最優秀監督賞を取れたのは、私の脚本のおかげですからね」
「分かりました。約束です。明日にでも名簿を出しましょう。矢崎粟の事務所のタレントでしたよね?」近藤監督はにこやかに返事した。
彼は以前、岡本棉の脚本で映画を撮影し、大ヒットを記録して、それが彼の代表作となった。
残念ながら、岡本棉の脚本は引く手数多で、この数年は再び協力する機会がなかった。今、再び協力できるチャンスがあるなら、もちろんそれを掴みたいと思っていた。
岡本棉は高慢に返事した。「それならまあいいでしょう」
近藤監督は好奇心を抑えきれず尋ねた。「それで、矢崎粟とはどういう関係なんですか?こんなに助けるなんて、あなたらしくないですよ!」
岡本棉は人の面倒を見たがらないことで有名で、時々撮影現場に来て指導する以外は、家で脚本を書いているだけだった。
矢崎粟のためにこれほど心を砕くということは、並々ならぬ関係があるに違いない。
岡本棉は答えた。「命の恩人です」
矢崎粟は彼女の家族を救ってくれた。それは彼女の命を救ったも同然で、この恩は心に刻んでいた。
近藤監督は納得したように頷いた。これで話が通じた。
矢崎粟事務所のタレントは、確か夏目博という名前だった。
近藤監督は慎重に思い出してみて、やっとピンときた。あの若者か!
オーディションの時、彼は残念に思っていたのだ。この役は夏目博のために作られたようなものだった。矢崎家が横やりを入れなければ、夏目博のものになっていたはずだった。
そう考えると、近藤監督の心も明るくなってきた。
これも縁なのだろう!これでよかった。この作品の質は保証できるし、彼も心配が減る。