613 手段が多い

幼い頃から甘やかして育てた息子が懇願するような表情を見せると、田中千佳は胸が張り裂けそうになり、矢崎美緒をより一層憎らしく思った。「分かったわ。でも今日は必ず私と一緒に帰るのよ。彼女に会いに行くのは構わないけど、ずっと病室にいるわけにはいかないわ」

もしこれが広まったら、息子の評判は台無しになってしまう。

それに、小林博にはすでに婚約者がいるのだ。婚約者が知ったら、きっと騒ぎを起こすに違いない。

「分かったよ!」小林博は名残惜しそうに矢崎美緒を見つめ、いくつか注意事項を伝えてから、田中千佳と共に小林家へ戻った。

小林家に戻ると、田中千佳は小林博を書斎に呼び、道理を丁寧に説明したが、小林博は矢崎美緒が無実だと固く信じ続けていた。

たとえ矢崎美緒が何か間違いを犯したとしても、それは故意ではなかったはずだと。