628 クズから離れる

「おばさま、もしあなたがこのような男性に出会ったら、まだ期待を持てますか?」

彼女の言葉には怒りは感じられなかったが、田中千佳は心の中の悲しみを感じ取った。

田中千佳は困った表情で、小林博のために弁解した。「きっと偶然よ。彼はあなたのことを想っているわ。あの時は頭が回らなかっただけで、結婚したら、きっとあなたを一番大切にするわ」

福井昭美は軽く笑った。「偶然?全てが偶然なのかしら?重要な場面で小林博が必要な時、矢崎美緒はいつも何かと理由をつけて彼を連れ去る。これって私に主権を誇示しているんじゃないの?」

「矢崎美緒は私の前で、小林博が彼女をどれだけ可愛がっているかを自慢げに話す。この関係は普通の兄妹の情じゃないわ」

トレンド入りした動画を見た時、福井昭美は吐き気を催しそうになった。

小林博と矢崎美緒の仲が良いことは知っていたが、二人が同じベッドで同じ布団をかぶって寝ているとは思わなかった。

その動画を見る前まで、福井昭美は自分に言い聞かせていた。結婚すれば良くなるかもしれない、矢崎美緒に負けることはない、彼女と小林博は夫婦になるのだと。

しかし動画を見た後、小林博との婚約を解消する決心をした。

世の中には男性はたくさんいる。福井家の令嬢として、自分を卑下する必要はない。

小林博は矢崎美緒のために、何度も彼女と喧嘩をしてきた。両親には言えず、ずっと心の中に抱え込んで、病気になりそうだった。

以前の豪快で寛容な自分はどこへ行ってしまったのだろう?

そこで、よく考えた後、すぐに両親に打ち明けた。両親は話を聞いて怒り、小林家との婚約解消に同意した。

福井昭美は両親に小林家と話し合ってもらおうと思っていたが、思いがけず小林博から電話がかかってきた。

それならば、全てをはっきりさせよう。

彼女は被害者なのだ。矢崎美緒と小林博のために事実を隠す必要はない。

田中千佳は話を聞き終わると、表情を曇らせながらも再度説得を試みた。「昭美ちゃん、もう一度考え直してみない?今は怒りに任せているけど、この決定は後で後悔することになるわ。それに、ご両親は婚約解消のことを知っているの?同意してくれたの?」

もし福井昭美の一方的な決定なら、まだ余地はある。

福井家も決めたのなら、もう話し合う余地はない。