661 完全無一文

矢野常はようやく落ち着きを取り戻し、「お父さん、これからどうするつもり?ずっと隠し続けるの?」と尋ねた。

矢野寿は首を振って、「いや、お前にこれを話したのは、すべてを明かす時が来たからだ」と答えた。

今話すのは、タイミングが来たからだ。

「すべてを明かす?背後にいる人たちが知ったら、矢野家に影響はないの?」矢野常は頭を掻きながら、混乱した様子だった。

父親を信じてはいたが、この件は不可解で、父の考えについていけない気がした。

矢野寿は目を落として、「朱里が今朝、動画を送ってきた。昨夜お前たちが霊木の谷で危険な目に遭った時の動画だ。それを見て、澤蘭子に対する我慢が限界に達した」と言った。

「粟から時機が来たと聞いて、共に反撃できると。だから、もう我慢しないことにした」

昨日の動画を見て、矢野寿は非常に恐ろしく感じた。もし二人の子供に何かあったら、澤蘭子への復讐など何の意味もない。

「粟?」矢野常は困惑した表情を浮かべた。

父が粟とどうして連絡を取り合っているのか?二人はほとんど会ったことがないはずなのに。

「それが分からないでしょう?」

矢野朱里は得意げに笑って、「この前、みんなで粟の家に行った時、私がおじさんと連絡を取り合うようになったの。おじさんも粟と連絡先を交換して、今ではすっかり親しくなったわ」

彼女の誇らしげな様子を見て、岡本英恵は楽しそうに笑いながら、朱里の額を軽く叩いた。「まったく、お前という子は本当にいたずら好きね」

岡本英恵は孫娘が賢く、豪快な性格であることを知っていた。

孫娘が孫息子よりも賢いとは思わなかった。

矢野朱里はにこにこしながら言った。「私はおばあちゃんの賢さを受け継いだのよ。お兄ちゃんは全然受け継いでないなんて、残念!」

そう言って、矢野常に向かって顔をしかめた。

矢野常は仕方なく首を振って、「分かったよ。みんな僕に隠してたんだね」

家族みんなが事情を把握していたのに、自分だけが何も分からず、混乱していたのだ。

もしこれらのことを早く知っていれば、もっと早く母親との関係を絶っていただろう。

でも、今のタイミングもちょうどいいかもしれない。

おそらく、神様の配剤が最善なのだろう。そう考えると、矢野常も悩まなくなった。