662 結婚届を出していない

矢野寿は頷いて言った。「当時、私は彼女を信用していなかった。結婚証明書を取得すると面倒なことになると分かっていたので、ずっと先延ばしにしていた。後で彼女に、矢野家の若様として役所の人に来てもらえると言って、数人の役者を雇って演技をさせ、偽の証明書を作った。」

彼は一旦言葉を切り、続けて言った。「当時、彼女は私が彼女に夢中だと思い込んでいたので、この点にこだわらなかった。これほど長い年月が経っても、彼女の心は裏切り者の男にあり、何の不自然さにも気付かず、このまま隠し通せた。」

二人とも未婚の状態で、法的な保護は一切受けられない。

法律上も、財産分与の必要はない。

矢野常はまだ不安が拭えず、眉をひそめて尋ねた。「でも父さん、彼女と結婚式は挙げたの?もし挙げていたら、事実婚になってしまって、法律上でもお金を分けなければならなくなるよ。」