二人は何の契約も結んでいないし、法的関係もないので、澤蘭子が矢野家の株式を分けてもらえるはずがない。
矢野朱里は覚えている。子供の頃、矢野家で澤蘭子に正座させられた時、澤蘭子はまるで矢野家の主人のように騒ぎ立て、将来矢野家の株式は朱里には分配しないと言い、諦めろと言った。
ここ数年、澤蘭子は矢野家の人脈を頻繁に利用し、まるで自分が矢野家の会長であるかのように振る舞っていた。
今となっては、澤蘭子は澤家で株式を持っていないどころか、わずかな財産さえも分けてもらえないことが分かった。
「はっ、お義姉さんはまだ兄さんが彼女を愛していると思っているのね!本当に厚かましいわ」岡本英恵は思わず皮肉を言った。
矢野誠也が言った。「澤蘭子が受け入れられなくても、私たち矢野家が受け入れさせます。結局、私たち矢野家も甘くはありませんからね!」
彼は威厳に満ちた表情で、その威風堂々とした態度を見せた。
矢野家の前家主として、彼はまだ多くの切り札を持っており、最後の清算の時を待っているのだ。
ここまで話して、矢野常は突然矢野徹のことを思い出した。
矢野徹は母親は同じだが父親の異なる兄で、矢野家が彼をどう処遇するのか分からなかった。
矢野常は尋ねた。「お父さん、矢野徹はどうするの?どう処遇するつもり?」
きっと矢野徹を矢野家から追放するのだろう!
結局は不倫相手の息子だし、この立場も中途半端だ。
矢野常の言葉が出た瞬間、全員が静かになり、応接間は一瞬沈黙に包まれた。
岡本英恵の目が少し暗くなった。
正直に言えば、矢野徹はいい子だった。年末年始には必ず贈り物を持ってきて、時々電話で安否を尋ねてくれる、とても思いやりのある子だった。
彼は矢野常と家産を争う意思もなく、いつも分を弁えていた。
ただ、彼の体にはあの男の血が流れているという点が、受け入れがたかった。
矢野寿は少し考えてから、「彼に何かするつもりはない。彼は賢い人間だから、自分で何が最善の選択かわかっているはずだ」と言った。
矢野徹は既に真相を知っており、彼に打ち明けに来たこともあった。二人は夜通し話し合った。
そのため、二人の間で合意が成立していた。
清算の日が来たら、矢野徹は自ら矢野家の企業から退き、矢野家からも引っ越し、以後東京での生活を断つ。
お互いに干渉しない関係を保つ。