646 また一人の呪術師が現れる

矢崎家の三兄弟は逃げ出すなんてしない。守るなら一緒に守るのだ。

それでこそだ!

矢崎若菜は困惑した表情を浮かべながら、虫が車椅子を伝って次々と彼の足に這い上がってくるのを見ていた。しかし、激しく動くことはできず、また足を骨折することを恐れていた。

彼は苦しそうに言った。「二番目のお兄さん、四番目の弟、早く助けて!足に虫がいっぱい這い上がってきたんだ!」

早く助けてくれないと、足が虫に食い荒らされてしまう。

矢崎政氏は素早く飛びかかり、服で払いながら言った。「三番目のお兄さん、少し離れた方がいいよ。テントの入り口にいないで。ここは毒虫が一番多いから。」

矢崎若菜は苦々しい表情で言った。「離れたら、野獣が来たらもっと大変じゃないか?毒虫に刺されるほうがましだ。」

一人でここを離れたら、もっと危険かもしれない。

今は矢野常たちがいるから、少なくとも心理的な安心感がある。

もし粟が戻ってきて、車椅子の自分がまだ頑張っているのを見たら、自分に対する見方も変わるかもしれない。

矢崎弘は歯を食いしばりながら、心の中で矢野常と森田廣を恨んでいた。

民宿にいた時、森田廣と矢野常に個別に提案していたのだ。霊木の谷には行かない方がいい、ここは危険すぎると。

森田廣と矢野常は聞く耳を持たなかった。

今や大変なことになってしまった。

矢崎粟は周囲を見回し、毒虫が全て彼らのエリアに集中していることに気付いた。他のキャンプエリアには全くいなかった。

こちらは大騒ぎなのに、他のキャンプエリアの観光客は全く反応がない。

これは他の観光客が昏睡状態に陥っているということだ。おそらく昏睡効果のある薬物を吸入させられたのだろう。

矢崎粟は森田廣たちの周辺を注意深く観察し、犯人の隠れ場所を探した。ついに小さな丘の裏側に人影を発見した。

その人物は丘の裏側に這いつくばり、身を隠していたため、発見は困難だった。

矢崎粟が高い位置にいなければ、気付くことはできなかっただろう。

やはり来ていた。

この人物はおそらく小林美登里の呪いの毒を移す手助けをした呪術師で、その呪術の使い方から見ると、呪術王藤村邦夫と同じ流派のようだった。

おそらく藤村邦夫の師弟関係者だろう。

この人物は小林美登里が派遣したはずがない。背後の人物と必ず関係がある。