721 自己で楽しむ

藤村敦史の表情が凍りつき、冷笑を漏らした。「焦る必要はない。今日の矢崎さんは少しも怖がっていないようだな」

それは何かを頼みにしているということだ。

矢崎粟の頼みとするものが一体何なのか……

「後ろめたいことをした人だけが怖がるものよ。私が怖がる理由なんてないわ」矢崎粟はゆっくりと微笑み、表情は余裕に満ちていて、むしろ藤村敦史よりも悠然としていた。

藤村敦史は髭に手を伸ばし、「どうやら、私の弟子は死んでいないようだな？」

もし死んでいたら、こんなに和やかな雰囲気にはならないはずだ。

矢崎粟は彼を殺そうとさえするだろう。

矢崎粟は自分にお茶を注ぎ足した。「あら？藤村大師は知りたいのかしら？」

藤村敦史は冷笑した。「どう思う？」

「彼は死にかけたわ。でも私が助けたの。今はある場所で療養中よ。藤村大師、会いたい？」矢崎粟は笑みを浮かべながら言った。

彼女は中華街を離れる前に、藤村慎一の丹田に埋め込んだ法術を発動させていた。

最近、藤村慎一の傷は恐らくますます深刻になっているはず。彼の経絡も破壊され、一生廃人同然だ。

これは死んでいるのと何が違うというのか？

もっともこの話は口にするつもりはない。彼女はまだ藤村敦史と取引がしたいのだから！

矢崎粟の言葉を聞いて、藤村敦史は内心ほっとした。しかしそれを矢崎粟に悟られまいとした。もし弟子が自分にとって重要だと知られたら、矢崎粟に脅されかねないからだ。

彼もお茶を一口飲んで、心を落ち着かせた。

しばらくして、藤村敦史はゆっくりと尋ねた。「分かっているだろうが、私は簡単には信じない。証拠を見せてもらわないとな」

矢崎粟は笑って言った。「それなら簡単よ。今すぐ見張りの人に電話して、あなたの弟子とビデオ通話させてあげるわ。ビデオなら偽装のしようがないでしょう？」

「いいだろう」藤村敦史は頷いた。

彼が望んでいたのはまさにこの言葉だった。

矢崎粟は玄学管理所三班の班長である澤村未緒と少し話をしてから、電話をかけた。向こう側もカメラを藤村慎一に向けた。

藤村慎一を見た瞬間、藤村敦史は密かに拳を握りしめ、内心興奮を覚えた。

自分はうまく隠せたと思っていたが、実は矢崎粟にはとっくに見抜かれていた。

矢崎粟は携帯を差し出した。「お話しなさい。私は口を挟まないわ」