藤田川は暇なときにショート動画を見ていたので、矢崎粟が言う普段着とは中華街の外で着る服のことだと分かっていた。
少し考えてから、「普段着は持っていないけど、中華街の外に買いに行くことはできる」と言った。
矢崎粟は首を振って、「いいわ、東京に着いてから買えばいいから。今から買いに行くのは面倒だわ。覚悟しておいてね、その古装束で、きっと多くの人の目を引くわよ」
藤田川は微笑んで、「大丈夫、慣れているから」と答えた。
彼の容姿なら、子供の頃から人に見られ続けてきたのだから。
普段着に着替えたとしても、やはり注目されるだろう。
矢崎粟は眉を上げ、突然思いついた。もし彼女が師兄と一緒に戻れば、堀首席はきっと慌てるだろう。
矢崎粟と藤田川が力を合わせれば、堀首席も警戒するはずだ。
だから、堀首席はきっと二人を引き離し、矢崎粟を抹殺しようとするだろう。
そして矢崎粟を倒す最良の方法は、他人の手を借りること。藤村敦史という刃を使って矢崎粟を殺すことだ。
そう考えると、矢崎粟は笑みを浮かべた。「師兄、今回私たちが戻ったら、誰かが眠れなくなるわね!あの人は、私が藤村敦史と一時的な和解をしたなんて想像もできないでしょう。その時は計略に乗って、逆手に取りましょう」
堀首席にも裏切りとはどういうものか、味わってもらおう。
「君ったら!」藤田川は優しく笑って、「今回の行程は君に任せるよ。好きにやっていいから」
彼には確信があった。背後にいる人物は厄介なことになるだろう。
二人はしばらく話をして、矢崎粟は小院に戻って荷物をまとめた。
午後5時、三人は車で中華街近くの空港へ向かった。
空港に着いて車から降りると、すぐに通行人に気付かれ、周りから驚きの声が上がった。
矢崎粟はマスクと帽子をして、紺色のワンピースを着て、長い髪を後ろに流していた。美しくも凛々しい姿だった。
藤田川は古装束姿で、マスクをしていても端正な顔立ちは隠せなかった。
彼の醸し出す雰囲気があまりにも人目を引くため、近くを通る人々は何度も振り返って見ていた。その目には驚嘆と憧れが浮かんでいた。
傍らの小道士も可愛らしく、素色の古装束がより一層愛らしさを引き立て、頬はふっくらとして、目は利発そうだった。
すぐに矢崎粟のファンが気付いた。
「あっ、粟ちゃんだ!」