電話を切ると、すぐに秘書を呼び入れた。
矢崎正宗は「会社の弁護士に離婚協議書を作成してもらいなさい。妻への財産分与は法律に基づいて分配し、子供たちはもう大きいから親権を争う必要もない。できるだけ早く協議書を作成するように」と言った。
「はい!」秘書は目に浮かぶ驚きを隠して退出した。
社長夫婦の仲が良くないことは知っていたが、まさか離婚にまで至るとは思わなかった。
しかし、矢崎社長の奥さんは本当に道理が分からない人だ。矢崎粟のような優秀な娘がいるのに、養女を可愛がるなんて、会社の人々にも理解できないことだった。
秘書として、矢崎社長がもったいないと感じた。
秘書の目には、矢崎社長は良い夫の代表で、会社で全力を尽くし、わざわざ男性秘書を選んで妻を安心させようとしていた。
残念ながら、彼の妻は期待外れだった。
……
電話を切った後、矢崎粟は矢野寿に電話をかけ、堀信雄が逮捕されたことを伝えた。
矢野寿は聞き終わった後、しばらく言葉を発しなかった。
通話中の表示がなければ、夢を見ているのかと思うほどだった。
何年もかけた計画が、こうして終わるのか?
なぜか、心の中がぽっかりと空いているような気がした。
矢野寿はしばらく躊躇してから、やっと口を開いた。「今、複雑な気持ちなんだ。何年も芝居を打ち続けてきたのに、あっという間に彼が捕まってしまった。人生の目標が突然なくなったような気分だよ。」
自分のこれまでの努力の意味を疑い始めていた。
もし芝居を打っていなかったとしても、結果は同じだったのかもしれない?
矢崎粟は彼の考えを察することができ、こう言った。「何年もの屈辱に耐えてきたことには価値があります。矢野家に一筋の光明をもたらしました。調査で得られた資料によると、背後の人物の筋書き通りに動かなかった家族が何軒かあり、それらの家族は全て不測の事態に見舞われ、すでに消えてしまいました。もし芝居を打っていなければ、矢野常と矢野朱里は生き延びることができなかったでしょう。」
矢野寿はそれを聞いて、ようやく心が晴れ渡り、深いため息をついて言った。「ありがとう、粟。子供たちが無事なら、それ以上望むものはない。」
目的は達成された。喜ぶべきなのだ。
「あなたのような父親を持つ矢野常は幸運ですね」と矢崎粟は微笑んで言った。