790 仇敵の子

二人を見送った後、矢崎粟は矢崎正宗に電話をかけ、背後の人物が捕まったことを伝えた。

彼女は自分が誘拐された真相も話した。

矢崎正宗はそれを聞いて、怒り心頭で尋ねた。「粟、小林美登里は真相を知っていながら、それでも矢崎美緒を手元に置くことを選んだのか?」

「はい、堀首席がすべての事情を説明しました」と矢崎粟は答えた。

矢崎正宗は怒りで首筋の血管が浮き出るほどで、顔色は険しかった。

彼は以前から予想していた。矢崎美緒が矢崎家に入ったのは背後の人物と関係があり、矢崎美緒の身元も疑わしかった。

しかし、矢崎美緒がその人物の子供だとは思いもよらなかった。

矢崎美緒の母は粟を誘拐した共犯者だったのだ!

この連中は人をなめすぎている。

敵の子供を二十数年も育て、愚かな妻は矢崎美緒を溺愛し、矢崎美緒のために何度も粟を叱りつけた。

矢崎正宗は冷たく言った。「小林美登里は悪魔に取り憑かれたのか、何も分からなくなって、頭の中は何が詰まっているんだ」

彼は小林美登里の心が理解できなかった。

むしろ小林美登里のやり方に憎しみすら感じていた。

矢崎粟は笑って言った。「彼女はいつもそうでしょう?私は全然驚きませんよ」

小林美登里は自分が実の娘だと知っていながら、それでも矢崎美緒の味方をしていた。

矢崎美緒が敵の娘だと知っても、小林美登里は手放せないのだ。

あるいは、小林美登里はまだ矢崎美緒を利用する必要があり、当然追い出すことはできない。彼女の心の中では利益が第一なのだ。

「はぁ!」矢崎正宗は深いため息をつき、何を言えばいいのか分からなかった。

おそらく、この時、彼は慰めの言葉をかけるべきだった。

しかし、彼は知っていた。粟はいつも強い子で、自分には慰める立場になく、黙っているほうがましだと。

「そうそう、準備しておいてください。母娘二人はもうすぐ仲違いすることになりますから。その前にやりたいことがあれば先にやっておいたほうがいいですよ。仲違いしてからでは不便になりますから」と矢崎粟は注意を促した。

二人が仲違いしたら、小林美登里は真っ先に矢崎正宗に縋りつくだろう。そうなれば矢崎正宗は何もできなくなる。

矢崎正宗はそれを聞いて、心に悲しみを感じた。

道理の分からない妻を持ち、実の娘が家庭の問題に心を砕かなければならないことが悲しかった。