832 無駄遣い

矢崎美緒は本当に計算高くて、いつも家族を誤解させ、矢崎粟と仲良くなることを思いとどまらせていた。

小林美登里も気づいていた。矢崎粟は家族の愛情を切望する子供で、矢崎家に戻ってからは、家族一人一人に心を込めて接していた。

しかし、誰も彼女の優しさを大切にせず、むしろ矢崎粟の献身を当たり前のことと思っていた。

兄たちも矢崎粟が情に厚いことを知っていて、兄という立場を利用してバラエティ番組の出演枠を要求し、露骨に矢崎美緒を贔屓し、兄妹の絆を軽々しく扱っていた。

彼らは矢崎粟が実の妹だから、どんなことがあっても離れていかないと思っていた。

彼らは矢崎美緒こそが気遣われるべき存在だと思っていた。

矢崎粟は高原でのロケを終えた後、矢崎家には戻らず、撮影所に滞在し、矢崎家の誰とも連絡を取らなかった。