831 見せかけだけ

これらの薬膳は矢崎粟が何度も試作を重ね、最高の薬材を使って作り上げたもので、味も良く効果も抜群で、矢崎粟の心血が注がれていた。

兄たちに対しても、矢崎粟は非常に気遣っていた。

彼女は矢崎若菜と矢崎政氏に早寝するよう促し、時間通りに寝るよう催促していた。

この期間、矢崎粟の目には愛情と温かさが宿り、家族に対して心の底から尽くしていた。

小林美登里は考えてみた。これらの出来事は全て矢崎粟が矢崎家と決裂する前に起きたことで、全て事実だった。

彼女はさらに矢崎美緒を観察した。

この期間中、矢崎美緒は養母とも一度会い、どうやって矢崎粟を矢崎家から追い出すかを相談していて、それを聞いた小林美登里は我慢できないほど腹が立った。

矢崎家に戻ってから、矢崎美緒も見せかけの気遣いをしていた。

しかし小林美登里は一目で分かった。矢崎美緒はただの見せかけで、矢崎粟とは雲泥の差だった。

矢崎粟の気遣いは全て実のあるものだった。

矢崎美緒はただ言葉巧みなだけで、当時の彼女は養女の功績しか見えず、矢崎粟のしていることを無視していた。

息子たちでさえ、矢崎粟ほど彼女のことを気にかけていなかった。

夢の中の小林美登里は矢崎粟に対してはごく普通で、言葉巧みな矢崎美緒の方を好んでいた。

時は早く過ぎ、矢崎美緒と矢崎粟がバラエティ番組の枠を争う時期となり、この時期は家庭内の紛争が最も多かった。

矢崎美緒は常に小林美登里の側で矢崎粟の悪口を言っていた。

小林美登里に矢崎粟はバラエティ番組の枠を矢崎美緒に譲るべきだと思わせた。

今回、小林美登里が意外に思ったのは、矢崎粟が本当にバラエティ番組の枠を矢崎美緒に譲ったことだった。

彼女には分かった。矢崎粟は非常に不本意で、家族に対しても非常に失望していたが、それでも家族の願いを叶えたのだ。

矢崎美緒はバラエティ番組に出演し、それをきっかけに人気芸能人となった。

一方、矢崎粟の仕事は順調ではなかった。

この出来事以来、矢崎粟は家族に対して冷淡になり、頻繁に帰宅せず、以前のように家族一人一人を気遣うこともなくなった。

しかし家族の誰一人として異変に気付かなかった。

小林美登里の腰椎が再び具合が悪くなり、矢崎粟にマッサージを頼むメッセージを送ったが、矢崎粟は言い訳をして帰ってこなかった。