部屋には矢崎弘と矢崎正宗、そしてベッドに横たわる小林美登里だけが残っていた。
矢崎弘は父親の表情を一瞥し、小林美登里に向かって言った。「母さん、彼らの言うことを聞くべきだよ。みんな正論を言ってるんだ。僕も行くから。」
彼は振り向いて部屋を出た。父親が母を説得してくれるだろうと分かっていたからだ。
小林美登里は怒りでベッドの上のものを全て床に投げ捨て、狂ったように矢崎正宗に向かって叫んだ。「正宗、あなたはあの三人が私を説教するのをただ見ていただけなの?」
矢崎正宗は冷ややかに鼻を鳴らした。「最初に三人に出て行けと言ったのは君じゃないか?自分のしてきたことを考えてみろ。一つでも母親らしいことをしたか?」
小林美登里の気勢は一気に萎んだ。「私は...だって、あの子たちが親不孝だから...」
彼らは誰一人として矢崎美緒のように素直で思いやりがあるわけではなかった。
残念なことに、以前の彼女は矢崎美緒の偽りの姿を見抜けず、何度も騙され、息子たちをさらに遠ざけてしまった。
矢崎正宗は深いため息をついた。「君にも非があるし、私も父親として十分な役割を果たせなかった。だから息子たちに多くを求めるのはやめよう。自然に任せれば、いずれ関係は良くなるかもしれない。ただし、君がもう暴走しないことが前提だ。さもなければ、誰も相手にしなくなるぞ。」
正直なところ、彼も前妻と関わりたくなかった。
前妻と向き合うたびに、気分が非常に悪くなるのだ。
小林美登里は焦って、矢崎正宗の袖を掴んだ。「もう少し話をしていって。病室で一人は退屈だわ。息子たちも皆帰ってしまったし。」
彼女は懇願するような目で矢崎正宗を見つめた。
矢崎正宗は断った。「これから会議があるんだ。自分で消化しろ。誰も一生付き合ってくれる人間なんていない。それに、私たちは既に離婚している。君の感情のゴミ箱になる義務は私にはない。」
そう言うと、彼は袖を振り払い、大股で病室の出口へと向かった。
「正宗、そこまで冷たくする必要があるの?」小林美登里はシーツを握りしめ、傷ついた表情を浮かべた。
たとえ離婚したとはいえ、二人にはこれだけ長い年月の思い出があるというのに!