吉野柔は着信を見て矢崎美緒からだと分かり、思わず電話に出たくなくなった。
以前は確かに矢崎美緒とは仲が良かった。
でも今は、矢崎美緒の評判が悪くなってしまい、彼女とは関わりたくなかった。
それに吉野柔は矢崎美緒に四人の兄がいることをずっと妬んでいた。
表面上は仲が良かったが、実際は互いに妬み合っていた。
吉野柔は矢崎美緒が拘置所に連行されたことを知り、家でひどく嘲笑った。
電話が自動的に切れるのを待っていると、しばらくしてまた電話がかかってきた。
それが吉野柔の好奇心を刺激した。
矢崎美緒のプライドの高さからすれば、電話を切られても再びかけてくるということは、きっと急用があるはずだ。
吉野柔はようやく電話に出た。「もしもし、どちら様?」
矢崎美緒の声には切迫感があった。「柔、今すぐあなたの助けが必要なの。お母様の周りには優秀な弁護士がたくさんいると聞いたけど、私の裁判を手伝ってくれる弁護士を紹介してもらえない?」
「えーと...」吉野柔は断り方を考えていた。
自分の家の弁護士の時間を無駄にする必要なんてない。矢崎美緒が拘置所に入れられたなら、もう少しそこにいればいい。
矢崎美緒は相手が何を考えているか分かったようで、慌てて言った。「小林博お兄さんが私にあなたに助けを求めるように言ってくれなかったら、あなたの家がこんなに多くの弁護士と知り合いだとは知らなかったわ。出所したら、必ずきちんとお礼をするわ!」
この言葉を聞いた途端、吉野柔の態度は一変した。
吉野柔は目を輝かせ、声のトーンを和らげた。「分かったわ。じゃあ、まず状況を確認してみるけど、必ずしも助けられるとは限らないから、覚悟しておいてね。」
自分の好きな人に頼まれたことなら、もちろん面子を立ててあげなければならない。
でも、小林博の方に確認の電話をかけてみる必要があったので、すぐには矢崎美緒に承諾しなかった。
「大丈夫よ、家の弁護士に手伝ってもらえるだけでも十分。」矢崎美緒は興奮した様子で早口で言った。
なんてこと!
やっと弁護士を頼める機会が来た。しかも吉野家の弁護士だ。
吉野家は名家だから、吉野家と付き合いのある弁護士はもちろん優秀なはずだ。
二人は電話を切り、矢崎美緒は興奮した表情を浮かべていた。