その友人は笑って言った。「二人は数日前に付き合い始めたんだ。私も最初に知った時は君と同じように驚いたけど、今は慣れたよ。吉野柔が本当に小林博を落とすなんて思わなかったけど、二人はよく似合ってるよ」
吉野家は財力が豊か。
吉野柔は性格がわがままだが、好きな人に対しては優しい。
小林博はイケメンで、多くの女性に好かれている。
矢崎美緒はソファーに崩れ落ちるように座り、虚ろな目で小林博を見つめた。
吉野柔も矢崎美緒を見かけ、彼女の顔に浮かぶ落胆と衝撃を見逃さなかった。
彼女は笑って小林博に言った。「博さん、矢崎美緒も来てるみたいですね。私たちの仲を取り持ってくれた恩人だし、挨拶に行きましょうよ」
矢崎美緒の一件がなければ、二人は連絡を取り合うことはなかっただろう。
彼女は矢崎美緒にしっかりと感謝したかった。
もちろん、吉野柔は矢崎美緒が小林博に特別な感情を抱いていることも見抜いていた。
彼女が挨拶に行くのは、自分の男に手を出すなと伝えるためだった。
「いいね」小林博は同意した。
吉野柔を安心させるため、彼は喜んで演技をした。
彼は矢崎美緒に特別な感情を持っていたが、吉野家全体と比べれば、それはあまりにも些細なものだった。
キャリアの前では、感情は捨てることができる。
二人はグラスを手に、矢崎美緒の方へ歩いていった。
矢崎美緒は再びグラスに酒を注ぎ、黙々と飲んでいた。自分を酔わせようとしていた。
小林博が吉野柔のものになった。これからどうすればいいの?
本当に本田家の者から逃れられないの?
まだ数千万の借金が残っているのに!
そう考えると、矢崎美緒の心は凍りついた。
「美緒、来てたの?」吉野柔はグラスを持って、にこやかに近づいてきた。
矢崎美緒は二人が来るのを見て、少し驚いた様子で「ええ、ちょっと飲みに来ただけ」
小林博は矢崎美緒に頷いた。
「実は、あなたには感謝してるのよ」吉野柔は笑みを浮かべて言った。「あなたのことがなければ、私と博は再会することもなかったわ。あなたは私たちの仲人よ!」
好きな人が他人の腕に抱かれているのを見るのは、さぞ辛いでしょうね?
矢崎美緒が苦しんでいると思うと、吉野柔は嬉しくなった。
矢崎美緒は机の下で左手を握りしめ、太ももを強く摘んで、何とか表情を保った。