第016章:「坂本加奈、そんな子供じみたことはやめなさい!」

坂本加奈は彼の表情の微妙な変化に気づかないかのように、相変わらず淡々とした口調で言った。「他に用がないなら、私は先に行くわ」

身を翻して立ち去ろうとする。

林翔平は彼女が本当に去ろうとするのを見て、胸の内の感情を抑えながら、すぐに彼女を呼び止めた。「加奈」

坂本加奈は足を止め、振り返って彼を見た。

実は彼女は林翔平が何を言いたいのか、多少は予想がついていた。でも、もう聞きたくなかった。

結婚式の日に彼が自分を置き去りにした時から、もう彼に期待することはなくなった。だから彼が何を言おうと、自分にとってはもう重要ではなかった。

「加奈、あの日のことは説明させてほしい」林翔平は我慢強く、優しい声で言った。「知ってるだろう、春子は僕の元カノで、僕たちには素晴らしい過去があった。その後...」

言葉を途切れさせ、心を引き裂くような過去の出来事は省略して、「今回、春子が海外で事故に遭って、初めて僕に助けを求めてきた。放っておくわけにはいかなかったんだ」

「それで?」坂本加奈は彼が予想していたような許しや動揺を見せることなく、そっけなく聞き返した。

林翔平は表情を保つのが難しくなり、唇を舐めながら続けた。「春子の件は全部解決した。これからは彼女が僕たちの間に入ることは絶対にないから、もう怒らないでくれ」

坂本加奈は相変わらず無関心な様子で、「分かったわ。他に用件は?」

林翔平は一瞬固まり、その後感情を抑えきれず、低い声で苛立ちを混ぜながら言った。「どうしてそんな態度で話さなきゃいけないんだ?」

坂本加奈はまばたきをして、彼が何に腹を立てているのか分からない様子で、「じゃあ、どんな態度で話せばいいの?林さん、私たちの婚約はもう解消されたわ。以前のような態度は相応しくないでしょう」

以前は彼女はいつも甘い声で「翔平お兄さん」と呼び、彼の興味のあることを一生懸命学んで、ゴルフをしたり、ワインを味わったり、彼が何を言っても真剣に聞いて、言うことを素直に聞いて、彼を不機嫌にするようなことは一切しなかった。

でも結局、彼は白川晴香のことが忘れられず、簡単に自分を捨ててしまった。

「林さん」という一言で林翔平の表情は険しくなり、体の横に下ろした手を拳に握りしめ、深く息を吸って感情を抑えながら言った。「坂本加奈、そんな子供じみた態度はやめろ!」

「適当な男を見つけて結婚式を挙げれば、僕たちの婚約が無効になると思ってるのか?僕たちの婚約は両家の長老が決めたことだ。お前が解消すると言って解消できるものじゃない」

坂本加奈は眉をひそめ、困惑した目で彼を見つめた。

自分の言葉がまだ足りないのか、それとも彼が本当に理解できないのか?

林翔平はポケットから黒いベルベットのケースを取り出し、開くと輝くダイヤモンドのイヤリングが現れた。

「これはフランスで特別にお前のために選んだプレゼントだ。もう怒るのはやめてくれ。フランス式の結婚式が好きだったよな?もう一度やり直そう...」

「林さん...」坂本加奈は彼の話がさらに的外れになる前に遮り、彼の手にあるプレゼントを一瞥もせずに言った。「おばあちゃんはもう私たちの婚約解消に同意したの。だから私たちの間にはもう何の関係もないわ。そのイヤリングは白川晴香でも誰でも好きな人にあげればいいわ」

どうせ自分とは関係ないのだから。

林翔平の瞳孔が震えた。坂本家の老夫人が婚約解消に同意するとは思ってもみなかった!!

もしあの時この婚約がなければ、自分と白川晴香は別れることもなかった。今になって婚約を履行しようとしたら、坂本家が婚約解消を望むなんて!!

「坂本加奈!」林翔平は彼女の腕を掴み、骨を砕くかのような力で握りしめた!