第20章:「私には父親コンプレックスなんてないわ!」

黒川浩二に打ち明けたからなのか、坂本加奈は心が軽くなり、もう失望することもなくなった気がした。

黒川浩二が言ったように、人間性は複雑で、自分が以前考えていたことが単純すぎたのだ。たとえ林翔平が以前は良い人で、温かさをくれていたとしても、これだけ時間が経てば人は変わるものだ。

そのことに気付いた坂本加奈は、階段を上る足取りも軽やかになった。

部屋に入るとすぐに携帯の振動音が聞こえ、手に取ってLINEを確認する前に佐藤薫から電話がかかってきた。

「加奈!!!」電話から佐藤薫の悲鳴のような声が聞こえた。

坂本加奈はそこで蘭のことを忘れていたことを思い出した。「ごめんね蘭、急に用事が出来ちゃって、わざと約束をすっぽかしたわけじゃないの……」

言葉を最後まで言う前に、佐藤薫がぺちゃくちゃと喋り始めた。「それはいいから、まずあのイケメンすぎるヤバいくらいのイケメンは誰なの!!」