第35章:黒川のじいさんが来る?

記憶の一部を失うのも良いかもしれない。以前、林翔平のことをどれほど好きだったのかを忘れれば、彼に捨てられても心が引き裂かれるほど辛くならないだろう。

坂本加奈は深く息を吸い、ゆっくりと吐き出した。日記帳を机の引き出しに入れ、鍵をかけた。

「コホン……」ドアの方から軽い咳払いが聞こえた。

坂本加奈が振り返ると、いつの間にかドア枠に寄りかかっていた坂本真理子がいた。起きたばかりらしく、まだ眠そうな様子で、髪は整えられておらず乱れていたが格好良さは失われていなかった。魅力的な目には揶揄の色が浮かんでいた。「日記帳を鍵をかけて仕舞えば、林翔平というクズ男のことを忘れられると思ってるの?」

「もう忘れたわ」坂本加奈は唇を引き締め、明るい目で意味深な返事をした。

坂本真理子は何かを思い出したかのように、一瞬だけ目の色が変わり、唇を歪めた。「お腹空いた、何か食べに行くよ」