坂本加奈は中庭の金木犀の花が綺麗に咲いているのを見て、思わず数輪を摘み取りました。部屋に持ち帰って飾れば、その香りが長く楽しめるし、ドライフラワーにもできるし、もっと集めて金木犀酒も作れるかもしれないと考えていました!
月が空高く昇り、その白い光が地上に降り注いでいました。よく見ると、月の上で誰かが桂の木を切っているように見え、その傍らには小さな兎が座っているようでした。
坂本加奈が摘んだ小さな金木犀の枝が地面に落ちました。彼女が拾おうと身をかがめた時、夜風が吹き抜け、木々の葉を揺らし、満開の黄色い花びらが風に舞い散りました……
彼女が顔を上げると、まだ金木犀が舞っているのが見え、黄色い雪のように空中を舞う様子に思わず笑みがこぼれました。
黒川浩二は、いつの間にか車から降りて、玄関に立っていました。漆黒の瞳で、この光景から一瞬も目を離さずに見つめていました。
月の光が愛らしい彼女の頬に落ち、明るい笑顔は小さな太陽のように、全ての寒さを溶かし、全ての暗闇を照らすようでした。
周りは静かで、自分の心臓の鼓動が聞こえるほどでした。ドクン、ドクンと、一つ一つが大きくなり、太鼓のように響きました。
静けさの中で、何かが砕ける音が聞こえました。それは陽の光が差し込む場所でした。
坂本加奈は後になって自分に向けられた視線に気付き、振り向くと近くに立つ黒川浩二の姿を見つけました。立ち上がって手一杯の金木犀を抱えながら彼の前に歩み寄り、「黒川さん、この金木犀、とても良い香りがするでしょう」と言いました。
黒川浩二の視線は、彼女の笑顔から手のひらの可憐な黄色い花へと移り、すぐにまた笑みの窪みのある可愛らしい頬へと戻りました。声も自然と柔らかくなり、「ああ、とても良い香りだ」と答えました。
薄い唇が抑えきれずに上がり、笑みがすぐに目に映りました。
坂本加奈は彼が笑顔を見せるのを見て、一瞬呆然としました。「あなた...笑ったんですね」
以前も時々少し笑顔を見せることはありましたが、とても控えめでした。これは彼が本当に笑顔を見せた初めての瞬間のように思えました。
黒川浩二は否定せず、「私が笑うのは嫌いか?」と尋ねました。
坂本加奈は即座に首を振りました。「笑顔は良いことです。体にも良いし、気持ちも良くなります」