第065章：「お前の兄の給料から差し引く」

陽光が一面の窓から差し込み、彼女の長いまつげに金色の光を塗りつけたようだった。

愛らしい顔には集中した真剣な表情が浮かび、我を忘れた境地に入っているようだった。

黒川浩二は静かに近づき、彼女の横に立って、下を向くと彼女が描いている絵が見えた。漫画の男女が抱き合い、唇を重ねている絵だった。

背景はピンク色の雲が広がり、ピンクの桜の木があり、ロマンチックで少女らしい要素に満ちていた。

坂本加奈は手の中のペンを止め、紅い唇を軽く噛んで、「なんか物足りないわ、見た人がドキドキするような感じが出てないの！」

「どんな感じ？」

突然の声に坂本加奈は驚いて、細い体が思わず震え、顔を上げると男の意味ありげな黒い瞳と目が合った。

「い、いつ帰ってきたの？」坂本加奈は動揺しながら尋ねた。

「今さっき」黒川浩二は彼女の少し青ざめた顔を見て、手のひらを彼女の頭に優しく置いた。「驚かせてごめん？」

坂本加奈は深く息を吸い、何かに気付いて、急いでiPadを裏返して膝の上に置いた。

彼が自分の絵を見て、さっきの言葉も聞いていたことを思い出し、顔が真っ赤になって、恥ずかしさのあまり地面に穴があれば入りたい気持ちだった。

黒川浩二は彼女が黙って俯いているのを見て、すぐにしゃがみ込み、見下ろす位置から見上げる位置に変わった。

星を見上げるように。

「どうした？」薄い唇が動き、目には申し訳なさが浮かんでいた。「本当に驚かせてしまったか？」

先にノックすべきだったと思った。

彼が突然しゃがみ込んだことで坂本加奈は何故か緊張し、特に彼が自分を見上げた時、空気が薄くなったような気がして、ゆっくりと首を振った。「ううん」

黒川浩二は少し黙った後、すぐに理由を察して、薄い唇を開いた。「上手く描けてるよ」

それを聞いて、坂本加奈は誇らしく思うどころか、さらに恥ずかしくなった。使い捨てスリッパに入れた足先を見つめながら、甘えた声で説明した。「わ...私これは出版社の本の挿絵を描いてるの。編集者さんが甘くてドキドキする雰囲気を出してって言ったの！エッチな漫画を描いてたわけじゃないの...」

黒川浩二は口元を緩めた。「分かってる。君は素晴らしい」

坂本加奈は唇を噛んだ。彼が本当に褒めているのか分からなかったが、彼の真っ黒で誠実な目を見ると...