第076章:賢者は恋に落ちず、愚者は自ら堕落を選ぶ

「そんなの同じじゃないわ!」坂本加奈はかすれた声で反論した。「好きになるのに頭がいいとか関係ないでしょ!」

それに、もう林翔平のことは好きじゃないし。

黒川浩二はドライヤーのコードを差し込み、振り向いて彼女を見た。さらに冷たい口調で言った。「賢者は恋に落ちないって聞いたことないのか」

「聞いたことあるわ」坂本加奈は空のカップを置き、付け加えた。「賢者は恋に落ちない、その次は愚者は自ら堕落するって知ってるわ!」

彼の瞳と視線が合った時、心臓が一拍飛んだ。自分が少し調子に乗りすぎたことに気づき、目を伏せて小声で呟いた。「誰だって若い時は何人かのクズ男に出会うものよ」

黒川浩二は彼女の言葉を聞いて思わず笑みを漏らした。「まだ何人のクズ男に会うつもりだ?」

坂本加奈はすぐに首を振った。「一人だけよ」