坂本加奈は彼の言葉を疑わなかった。「林おばあちゃんのところに行ってきて、これから帰るところです」
黒川浩二は袖を少し上げ、腕時計を見た。「もうすぐランチタイムだけど、一緒に昼食でもどう?」
彼と一緒に昼食を取れるなんて、坂本加奈が断るはずもなかった。「いいわ」
黒川浩二は車のドアを開け、目で合図して彼女に乗るように促した。
坂本加奈が身を屈めようとした時、突然自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。顔を上げると、少し離れた駐車場に停めてあるBMWから降りてきた林波留の姿が目に入った。
眉をひそめ、何か嫌な予感が湧き上がってきた。
林波留は車から降りて急ぎ足で近づいてきた。呼んだのは坂本加奈なのに、視線は黒川浩二に釘付けだった。
「何か用?」坂本加奈から先に尋ねた。
林波留は我に返り、名残惜しそうに黒川浩二から視線を外した。「どうして私の家に来たの?」