第079章:「彼は私の親友ではない」

坂本加奈は彼の言葉を疑わなかった。「林おばあちゃんのところに行ってきて、これから帰るところです」

黒川浩二は袖を少し上げ、腕時計を見た。「もうすぐランチタイムだけど、一緒に昼食でもどう?」

彼と一緒に昼食を取れるなんて、坂本加奈が断るはずもなかった。「いいわ」

黒川浩二は車のドアを開け、目で合図して彼女に乗るように促した。

坂本加奈が身を屈めようとした時、突然自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。顔を上げると、少し離れた駐車場に停めてあるBMWから降りてきた林波留の姿が目に入った。

眉をひそめ、何か嫌な予感が湧き上がってきた。

林波留は車から降りて急ぎ足で近づいてきた。呼んだのは坂本加奈なのに、視線は黒川浩二に釘付けだった。

「何か用?」坂本加奈から先に尋ねた。

林波留は我に返り、名残惜しそうに黒川浩二から視線を外した。「どうして私の家に来たの?」

「林おばあちゃんの具合が悪いって聞いたから、お見舞いに来たの」

林波留は「ああ」と言って、また視線を黒川浩二に戻した。顔には少し恥じらいを含んだ笑みを浮かべ、明るい声で「はじめまして、私は林波留です。坂本加奈の親友なんです」

坂本加奈:?

以前、自分は林翔平に相応しくないと言っていた人が彼女じゃなかったっけ?いつから親友になったの?

黒川浩二は薄く目を開き、冷たく彼女を一瞥して、わずかに「ふん」と返しただけで、挨拶すらする気がない様子だった。その態度は傲慢そのものだった。

林波留には分からないだろうが、坂本加奈には分かっていた。彼には傲慢である資格があるのだと。

林波留は彼の反応があまりにも冷淡なのを見て、笑顔に寂しさが混じったが、それでも無理に笑顔を作って会話を続けようとした。「坂本加奈の親友なんですか?この前、坂本家でお会いしましたよね。覚えていますか?」

彼女は心の底から、こんな清潔感があり比類のない男性が坂本加奈のような人を好きになるはずがないと思っていた。せいぜい坂本加奈の面子を保つための演技だろうと。

坂本加奈はどんなに鈍感でも林波留の意図が分かった。心に怒りが込み上げ、声に感情を込めて言った。「彼は私の親友じゃないわ」

黒川浩二の眉間にしわが寄り、彼女を見下ろした時の瞳には不快感が浮かんでいた。次の瞬間——