坂本加奈は寝袋の中で体を丸め、手を唇に当てて咳き込んでしまい、澄んだ瞳に思索の色が浮かんだ。
「ドアが壊れているのかもしれません。誰かに電話して開けてもらいましょう」高橋先生は携帯を取り出して電話をかけようとしたが、つながらず、不思議そうに言った。「どうして電波がないんだろう?さっきまであったのに」
坂本加奈も携帯を取り出して確認すると、満タンだった電波が消え、Wi-Fiにも接続できず、部屋には固定電話もなかった。
つまり、彼女と高橋先生は部屋に閉じ込められてしまったのだ。
高橋先生は彼女の元気のない様子を見て、慰めるように言った。「心配しないで。そのうち戻ってきた人たちが探しに来るはずだから」
坂本加奈は淡々と「うん」と返事をし、目を伏せながら心の中で考えた。そんなことはない、あなたを探しに来ても、私の部屋までは来ないはず。今夜が過ぎれば、明日には私たちはクズ男と不倫女のレッテルを貼られることになる。