坂本真理子はドアを開ける動作を止め、振り返って坂本加奈を笑いながら睨みつけた。
坂本加奈は笑って舌を出した。
上野美里は心配そうに尋ねた。「こんな遅くにどこへ行くの?」
「友達と遊びに行くんだ」と坂本真理子は答えた。「後で帰ってくるよ」
「ママ、私もお兄ちゃんと一緒に行きたい」と坂本加奈は甘い声で言った。
「どこで遊ぶかも分からないし、外は寒いわ」と上野美里は息子に娘を連れて行かせるのが心配だった。
坂本加奈は唇を尖らせた。「でも、お兄ちゃんと行きたいの」
上野美里が何か言おうとした時、坂本健司が先に口を開いた。「行きたいなら行けばいい。早く帰ってくればいいだけだ」
そう言って、坂本真理子の方を見た。「妹の面倒をちゃんと見ろよ。さもないと帰ってきたら皮を剥ぐぞ」
「パパ、ママ、ありがとう」坂本加奈は言うと素早く立ち上がって二階に服を着替えに行った。階段の所で坂本真理子に忘れずに言った。「10分待っててね、絶対待っててね」
坂本真理子は歯痒く思いながら「時間過ぎたら置いていくぞ」と言った。
5分後、坂本加奈は真っ赤なダウンジャケットを着て、帽子とマフラーも身につけて降りてきた。
坂本真理子は口角を引きつらせながら「なんで自分を団子みたいに着飾ってるんだよ?しかも赤い!」
「外は寒いもん」坂本加奈は正々堂々と答えた。「これはママが特別に買ってくれた新しい服なのに、団子だなんて言うの?」
彼女がママに告げ口しようと振り向いた時、坂本真理子は急いで彼女のダウンジャケットのフードを掴んで外に連れ出した。「ママ、行ってきます」
上野様の小言を聞きたくなかったのだ。
上野美里は心配で立ち上がってドアまで見送り「加奈の面倒を見てあげてね。運転するなら飲まないで、早く帰ってきてね……」
「分かってるよ」坂本真理子は赤い団子を助手席に押し込み、母上に適当に返事をして車に乗り込んだ。
上野美里は彼の焦る様子を見て首を振った。「そそっかしくて、ちゃんと加奈の面倒を見られるかしら」
坂本健司が近寄ってきて慰めた。「真理子も大きくなったんだ。ちゃんと加奈の面倒を見るさ、安心しなさい」
「本当にちゃんと面倒を見てくれればいいけど、また前みたいに……」
坂本健司の目を見て、残りの言葉は飲み込んだ。