「だめ、岩崎さん……んん……」
言葉が終わらないうちに唇が塞がれた。
「抗議は無効だよ。さもないと、今すぐいじめちゃうぞ」
坂本加奈:「……」
黒川浩二は彼女を自分の部屋に戻らせず、彼のバスルームで入浴させ、彼のワイシャツを寝間着として着させた。
シャツは大きすぎて、着ると緩すぎて、上も下も風が通り抜けるようで、全く安心感がなかった。
坂本加奈は湯気で赤くなった小さな顔を更に赤らめながら、バスルームから出るとすぐにベッドに飛び込んで布団にくるまった。
鹿のような潤んだ瞳で、外から入ってくる黒川浩二を見つめた。彼は彼女のスマートフォンを持ち、牛乳も一杯持っていた。
黒川浩二は近づいてきて、スマートフォンをベッドサイドテーブルに置き、牛乳を彼女に渡した。「牛乳を飲んで、早く寝なさい」
坂本加奈は牛乳を受け取り、ゆっくりと飲みながら、横目でスマートフォンを見て、唇を舐めながら尋ねた。「私の部屋に取りに行ったの?」
「ああ」
「岩崎さんはもう入浴したの?」
「ああ」
「何も言わなかった?」
黒川浩二は目を上げて彼女を見た。「何が言いたいんだ?」
「岩崎さんは、私が彼女を救ったことも、私たちが偽装結婚だということも知らないの?」坂本加奈は黒川詩織と会った数回の様子から、彼女が何も知らないように感じていた。
「彼女がそれを知る必要はない」黒川浩二は薄い唇を開いて、彼女の言葉を訂正した。「それに、私たちは偽装結婚ではない」
「え?」
「私たちの結婚証明書は本物だ。今は順調に交際中で、私たちが最も幸せな夫婦になることは間違いない」
黒川浩二の低い声は確信に満ちていた。
坂本加奈は笑って言った。「まるで夢みたい。最初は確かに偽装結婚だったのに!」
どうして本当の結婚になって、お互いを好きになってしまったのだろう。
黒川浩二は彼女の唇の端に残った牛乳に視線を止め、身を乗り出して舐め取り、ついでに軽く噛んだ。「これで現実感じられるか?」
坂本加奈は痛みで息を呑んだ。「現実よ、現実」
もう一度噛まれるのが怖くて、自分の唇がなくなってしまいそうだった。
黒川浩二は彼女の手から空になったコップを取り、「先に寝ていろ。メールをいくつか確認しないといけない」