第162章:プレゼント

坂本加奈は驚いて服を背中に隠し、慌てた様子で言葉を詰まらせながら「な、何もしてないわ!」と言った。

まずい、岩崎に変態だと思われちゃうかも?

黒川詩織は笑いを堪えながら「もういいわよ!隠さなくても、お兄さんの服だってわかってるわ。昨夜あなたたち……」

言葉が終わらないうちに、坂本加奈は急いで手を伸ばして彼女の口を塞いだ。「昨夜は何も起こらなかったの、本当よ!」

「でも、あなたたちは夫婦でしょう?何かあっても普通だし、むしろ何もないほうが変じゃない?」黒川詩織は口を塞がれたまま、声が籠もって聞こえた。

「えっと……」坂本加奈は手を引っ込め、目線を泳がせながら、どう答えていいかわからなかった。

弁解すればするほど、複雑になってしまう。

黒川詩織は察しの良い人で、深く追及しなかった。「お兄さんとあなたの間に何があったのかわからないけど、あなたが彼のことを好きなのも、彼があなたのことを好きなのもわかるわ」

坂本加奈は照れくさそうに髪をかきあげた。「そんなに分かりやすい?」

「この世界には隠せないものが二つあるの。一つはくしゃみ、もう一つは好きな人を見る目」

昨日の授賞式で、二人が互いを見つめる眼差しには深い愛情が溢れていて、目が見える人なら誰でもわかったはず。

坂本加奈は唇を噛んで黙っていた。

黒川詩織はためらいながらも、真剣な表情で続けた。「加奈、お兄さんは表面は冷たそうに見えるけど、実は心が温かくて優しいの。この何年も、周りに女の子がいなかったし、まして親しくなれる人なんていなかった」

「知ってる。彼、前は女性恐怖症みたいだったよね」

「お兄さんは生まれつきそうだったわけじゃないの。もし……」黒川詩織は言葉を途中で止め、続けずにアーモンド形の瞳で彼女を見つめた。

「加奈、お兄さんのことを大切にしてあげて。みんなは彼のことを黒川グループの社長や黒川家の当主として、高みにいて輝かしい存在だと思ってるけど、彼が背負っているものや心の中の苦しみは、本人にしかわからないの。これからの人生が甘いものばかりで、苦しみがないようにしてあげてほしいの」

坂本加奈は彼女の言葉から何かを感じ取ったが、何もわからなかった。黒川浩二の過去で何があったのかは、本人が話したいと思わない限り、誰も教えてくれないだろう。