黒川浩二と坂本加奈には完璧なアリバイがあった。玄関の監視カメラ映像と家政婦の証言があったのだ。
警察は彼らへの疑いをすぐに晴らした。
バーと周辺の監視カメラは昨夜故障していて、バーテンダーに尋ねても覚えていないと言う。毎日多くの客が来るバーで、一人一人を覚えているわけにはいかないと。
この事件は瞬く間に未解決事件となり、解決の見込みがなくなった。
坂本加奈は上野美里から電話を受け、彼女と林翔平が暴行を受けたことについて心配していた。林翔平は今回ひどい目に遭った。
肋骨を二本折られ、顔も傷つけられ、これからは見た目も悪くなるだろう。
坂本加奈は上野美里に安心するよう慰め、この件は彼らとは無関係だと。林翔平がどうなろうと、自分には関係ないと。
電話で上野美里は思わず感慨深げに言った。「人は悪いことをしてはいけないものね。ほら、報いが来たでしょう」
「あの時、内村里美が私たちの前で威張っていて、息子がどれだけ優秀か、うちの家系には不釣り合いだって言ってたわ。結婚式で逃げ出したことを恨んでいたけど、今となっては逃げてくれて良かったわ」
「もし結婚していたら、あなたも苦労していたはず。今のような素晴らしい縁には巡り会えなかったでしょう」
上野美里は内村里美のところで散々な目に遭っていたので、今となっては心の中で踏みつけずにはいられなかった。
坂本加奈は彼女よりも達観していた。一度死を経験したからかもしれないし、今とても幸せで毎日楽しく過ごしているから、重要でない人たちに感情を無駄にしたくないと思っているからかもしれない。
「お母さん、もう過去のことだから、いつまでも考えないで」彼女は上野美里を慰めた。「両家の付き合いも途絶えたんだから、もう他人同然よ」
誰が他人のことを気にするだろうか?
「あなたの言う通りね。母さんはあなたの言う通りにするわ」上野美里は笑顔で話題を変えた。「黒川浩二が時間があったら、家に連れてきて食事でもしましょう」
「はい」坂本加奈はすぐに承諾し、さらに雑談を続けたが、上野美里の方に電話が入ってきたので、自分から電話を切った。
黒川浩二は会社に行っており、坂本加奈は最近休暇中で暇だったので、またネットで仕事を受注し、イラストを描いたり、純粋に見栄えの良い漫画をSNSに投稿したりして、フォロワーも徐々に増えていった。