第222章:価値がない

坂本加奈は長い睫毛を伏せたまま、何の反応も示さなかった。

黒川浩二は少し躊躇した後、慎重に清潔な白い手を握り、坂本加奈が拒否の反応を示さないのを見て、やっと安堵の息をついた。

「部屋に戻って休もう」

彼は坂本加奈の手を引いて上へ向かい、坂本加奈は彼に従って階段を上っていった。

黒川詩織は驚いた後、違和感を覚え、「普通じゃない」坂本加奈を不思議そうな目で見つめた。「お兄さん...」

声が出た途端、黒川浩二は冷たい目を向けた。その視線は刃物のように鋭かった。

黒川詩織はすぐに口を閉ざし、両手で口を強く押さえ、一切の音を出さないようにした。

坂本加奈が黒川詩織の傍を通り過ぎる時、彼女を見上げることもなく、床を見つめる瞳は虚ろで暗く、魂のない人形のようだった。

黒川詩織は思わず耳の後ろを掻きながら、小声で呟いた。「一体どうしたんだろう?」

お義姉さんがあまりにも変だよ!

黒川浩二は慎重に坂本加奈を寝室に連れて行き、布団をめくって彼女を寝かせた。

坂本加奈は大きなベッドに横たわり、目を閉じることなく天井を見つめ続けた。虚ろな瞳に一瞬の迷いが流れたように見えた。

黒川浩二は身を屈めて布団を掛け直し、優しく諭すように言った。「さあ、目を閉じて眠りなさい」

坂本加奈は彼の言葉を聞いたかのように、長い睫毛を伏せ、素直に目を閉じて眠りについた。

黒川浩二はベッドの端に座り、黒い瞳に愛情と優しさを満たしながら、心まで春の池のように柔らかくなっていた。

彼女は本当に素直で、夢遊病の時でさえ、人の心を溶かすほど可愛らしかった。

指先で彼女の目を覆う前髪を優しく払い、額に深い愛情のこもったキスを落とした。

「おやすみ、僕の太陽」

低く掠れた声は、窓の外の月明かりよりも優しかった。

...

黒川浩二が寝室を出ると、壁の隅に座り込んでいる黒川詩織が目に入った。彼女は見苦しい姿でスイカの半分を抱え、スプーンで中身を半分以上も掻き出していた。

黒川詩織は深淵のような彼の瞳と目が合うと、反射的に取り繕うような笑顔を浮かべた。

次の瞬間、彼と喧嘩中だったことを思い出し、すぐに表情を曇らせた。

本をめくるよりも早い表情の変化だった。

黒川浩二は表情を変えることなく、薄い唇を引き締めながら、冷たい声で言った。「今夜のことは、彼女の前で一言も漏らすな」