訪問客は客として迎えなければならないし、見舞いに来てくれた親切な気持ちを考えると、黒川詩織は心の中でどれほど彼女が嫌いでも表に出すわけにはいかなかった。そうでなければ、教養のない人間だと噂され、黒川浩二の教育が悪かったということになってしまう。
「ありがとう。どうぞお座りください」
安藤美緒は頷き、隣の椅子に座って中谷陸人を抱きしめながら、坂本加奈の方を見た。「黒川奥様もいらっしゃるのですね」
坂本加奈は気まずそうだが礼儀正しい笑顔を浮かべながら、心の中で文句を言った:私という人間がここにいるのを今まで気づかなかったの?
安藤美緒の視線は再び黒川詩織に向けられた。実際、彼女たちはそれほど親しくなく、唯一の接点は黒川浩二だけだった。
今、黒川浩二がいない中で、三人には全く話題がなく、病室は気まずいほど静かになっていた。
彼女の膝の上に座っている中谷陸人は落ち着きがなく、彼女の膝から降りようとしてむずがっていた。
安藤美緒は仕方なく彼を降ろしてやり、優しく注意した。「あまり走り回らないでね」
「ママ、食べたい!」中谷陸人はテーブルの上のフルーツバスケットを指さした。
「私が果物を洗ってきます」坂本加奈は自ら立ち上がってフルーツバスケットを手に取った。
黒川詩織が止めようとした時、安藤美緒が立ち上がり、静かな声で言った。「私がやらせていただきます」
「いいえ、あなたはお客様ですから」坂本加奈は彼女の好意を丁寧に断った。
しかし安藤美緒は彼女とキッチンに行くことを主張した。「お手伝いさせてください」
黒川詩織は彼女たちがキッチンに入っていくのを見て、自分と中谷陸人だけが取り残されて顔を見合わせることになった。
おかしいわ、私の見舞いに来たんじゃないの?どうして加奈とキッチンに行ったの?
黒川詩織は唇を噛みながら、心配になって、ベッドサイドの携帯電話を取り出し、すぐに黒川浩二にメッセージを送った。
「SOS!大変なことになったわ。安藤美緒が来たの。加奈さんもちょうどいるのΣ(⊙▽⊙"a」
……
黒川詩織が入院しているのはVIP病室で、独立したトイレの他にキッチンスペースもかなり広く、普段は火を使わないため油煙の臭いもなく、清潔で広々としていた。
坂本加奈はフルーツバスケットから果物を取り出し、シンクに入れた。