一時間後、カラオケボックスにて。
個室のドアが開き、坂本加奈が顔を上げると、入り口に立っている佐藤薫の姿が目に入った。全身びしょ濡れで、顔は真っ青、水滴が顔中を伝い、目も潤んでいて、目は真っ赤に腫れていた。
「蘭、どうしたの?」坂本加奈は急いで彼女の手を取り、その手が恐ろしいほど冷たく、温もりが全くないことに気付いた。
佐藤薫は何も言わず、彼女を見上げると、涙が静かに頬を伝い落ち、そのまま加奈を抱きしめた。
坂本加奈は彼女を抱きしめ返し、小さな手で優しく背中をさすりながら、「蘭、どうしたの?怖いわ!お兄ちゃんに何かされたの?」
坂本真理子の名前を聞いた途端、佐藤薫の涙はさらに激しく溢れ出した。
個室は薄暗く、角の暗がりに座っている人は気付かれにくかった。
「先に服を着替えさせてあげなさい」黒川浩二が静かな声で促した。