「誰が売ったら買い直せないって決めたんだ?」西村雄一郎は薄い唇を皮肉っぽく歪めた。
「危険すぎます。彼をこんなバイクに乗せちゃダメ……」
西村雄一郎はヘルメットを被り、長い脚でバイクにまたがると、振り返って彼女を見た。「俺に口出ししたいなら、追いついてからにしろ!」
言い終わるや否や、バイクを発進させて走り去った。
坂本加奈は中谷陸人を降ろそうとする間もなく、野村渉に電話する暇もなく、空いているタクシーを止めて追いかけた。
***
西村雄一郎がバイクを走らせる中、中谷陸人は彼の前で身を縮め、何かを掴もうとしても掴めず、スピードが速すぎて怖くて目を閉じてしまった。
耳元を冷たい風が吹き抜けていく。
西村雄一郎は彼が震えているのを見て、思わず口元に笑みを浮かべ、耳元で大きな声で言った。「怖がるな、目を開けて見てみろ」
中谷陸人は怖くて、ずっと目を閉じたままだった。
西村雄一郎はもう一度繰り返した。「お母さんに会いたいんじゃないのか?目を開けて見てみろよ……」
「お母さん」という言葉を聞いて、中谷陸人はようやく勇気を出してゆっくりと目を開けた。
夜の帳が下り、街の灯りが輝き始め、バイクの疾走する速さで遠くの灯りが流れ星のように一筋一筋、素早く過ぎていった。
中谷陸人は目の前の景色に魅了され、次第に恐怖を忘れ、体を少し起こしてきた。
西村雄一郎は彼が怖がらなくなったのを見て、薄い唇に笑みを浮かべた。
バイクは市街地を離れ、郊外に入り、山へと向かっていった。
墨都は山の多い街ではなく、近くには小さな山が一つあるだけで、普段は観光客も少なく、今は周りは静かで、街灯だけが静かに輝いていた。
西村雄一郎は舗装道路に沿って山を登り続け、すぐに山頂に着いた。夜の風は骨を刺すような寒さを含んでいた。
中谷陸人が降ろされた時、思わずくしゃみをした。
西村雄一郎はヘルメットを外し、自分の上着を脱いで彼に投げた。「着ろ」
風邪を引いたら、あの小さな女の子が心配するだろうから。
中谷陸人は上着を身に纏い、裾は地面に引きずるほどだった。首を上げて大きな目を瞬かせながら彼を見上げ、「お母さんは?」
西村雄一郎は答えず、近くの手すりに腰掛け、ポケットからタバコの箱に触れたが、少し躊躇してから結局取り出さなかった。