「いいよ!」坂本加奈は少しの躊躇もなく、即座に答えた。
西村雄一郎の瞳に初めて笑みが浮かんだ。「じゃあ、そう決まりだな」
「ママ!」中谷陸人が走ってきて、空の星を指差しながら嬉しそうに言った。「ママを見つけたよ。本当に空にいるんだ」
坂本加奈は笑顔で頷き、彼と目線を合わせるために屈んだ。「うん、ママはずっと空から見守ってくれているの。だから、ちゃんとご飯を食べて、よく寝て、学校に行って、ママの言うことを聞いて大きくならないとね」
「うん!」中谷陸人は力強く頷き、すぐに彼女が抱えている絵に目が留まった。「わあ、これは何の絵なの?」
坂本加奈は頷いた。
中谷陸人はすぐに西村雄一郎の方を向いた。「お兄ちゃん、私のママの絵も描いてくれる?」
西村雄一郎のこめかみに青筋が立った。「何がお兄ちゃんだ?おじさんと呼べ!」
彼が坂本加奈をママと呼び、自分をお兄ちゃんと呼ぶなんて、理由もなく一世代下げられてしまった。
中谷陸人は臨機応変に対応し、言い直した。「おじさん―」
彼の言葉が終わる前に、西村雄一郎は冷たく断った。「だめだ」
中谷陸人の小さな顔がすぐに曇った。
坂本加奈は彼の頬を優しくなでた。「落ち込まないで、私も絵が描けるでしょう?」
中谷陸人の目が一瞬で輝き、希望に満ちた眼差しで彼女を見つめた。
「帰ったら描くわ!」
中谷陸人は笑顔を見せた。「ありがとう、ママ!」
「さあ、帰りましょう」坂本加奈は中谷陸人の手を取って立ち上がったが、すぐに呆然とした。
ここは山の上で、タクシーを呼ぶこともできない。野村渉に連絡しても、到着まで1時間はかかるだろう!!
そのとき、この事態の元凶がヘルメットを持って近づいてきて、何気なく言った。「行こう、送っていく」
坂本加奈は躊躇した。彼女はバイクに乗りたくなかったし、陸人を乗せるのはもっと嫌だった。
「山の気温はどんどん下がっていく。本当に彼を連れてここで凍えるつもりか?」
西村雄一郎は彼女にヘルメットを差し出した。
坂本加奈はあまり迷わずにヘルメットを受け取って被り、屈んで中谷陸人のボタンもしっかりと留めた。
中谷陸人は西村雄一郎の前に座り、坂本加奈は後ろに座った。バイクの後ろには掴むところがなく、彼女は西村雄一郎の服をしっかりと掴むしかなかった。