黒川浩二の口元の笑みが深くなり、低くかすれた声で尋ねた。「お兄さんとキスしたくない?」
誰が言っても軽薄に聞こえる台詞だが、彼は神がかり的な容姿の持ち主で、チェロのように低く深い声で話すため、少女の心に火をつけるような効果があった。
坂本加奈は潤んだ瞳で、恥ずかしそうに頷いた。
黒川浩二は彼女の唇に軽くキスをした。
坂本加奈の長い睫毛の下の澄んだ瞳には戸惑いが浮かんでいた。
黒川浩二は薄い唇を緩ませ、「眼鏡を外してくれる?」
眼鏡は似合っているが、邪魔になる。
坂本加奈は顔を赤らめながら、彼の眼鏡を外した。
次の瞬間、男は頭を下げて彼女の唇を奪った。
歯の間に舌を滑り込ませ、深く溺れていった。
彼女は絵を描いていたため、アトリエには絵の具の香りが漂っていたが、坂本加奈には彼の身に纏う心地よい木の香りしか感じられなかった。