年末になると、各企業は非常に忙しくなり、黒川浩二という社長も例外ではなく、多くの会議や付き合いがありました。
坂本加奈は暇を持て余して実家の坂本家で両親と過ごしていました。
坂本健司も会社が忙しく、日中は家にいないため、上野美里は坂本加奈と一緒に買い物や食事に出かけ、お正月の準備をしていました。
去年は老夫人の件で黒川家でお正月を過ごしましたが、今は彼女と黒川浩二は正式な夫婦となり、婚姻届も出したので、どちらで過ごすかはまだ決まっていませんでした。
坂本加奈は浩二がどのように予定を立てているのか分からず、上野美里に先に話すのを控えていました。失望させたくなかったからです。
留学の話になると、彼女は行きたいと思っていましたが、浩二が同意しないのではないかと心配で、母親に悩みを打ち明けました。
上野美里は娘が心の内を話してくれることに感動し、喜びながら、経験者として彼女にアドバイスをしました。
「夫婦の間で一番大切なのは正直さよ。隠し事をしてはいけないわ。同意してくれなければ少しずつ説得すればいい。決めてから告げるよりはずっといいわ」
坂本加奈は母の言葉にもっともだと思い、うなずいて「じゃあ、今夜彼に話してみます」と言いました。
上野美里は安心したようにうなずき、二人はほかの話題に移りました。
買い物に疲れて、ショッピングモールで適当なレストランで食事をし、食事後、上野美里は休むために帰ることにしました。
坂本加奈は浩二に留学の件を話そうと思い、母と一緒には帰りませんでした。
上野美里をエレベーターまで送り、野村渉に迎えを頼もうと電話をかけようとした時、横から白髪交じりのスーツを着た老紳士が近づいてきて、感情のない静かな声で「坂本お嬢様、私の奥様があなたにお会いしたいそうです」と言いました。
坂本加奈は見覚えがあるような気がしましたが、すぐには思い出せませんでした。
「あなたの奥様とは?」
老紳士は答える代わりに「どうぞ」というジェスチャーをして、「奥様はあちらにいらっしゃいます。行けば分かります」と言いました。
坂本加奈は彼が指さす方向を見ると、そこにはカフェがありました。少し躊躇した後、「分かりました」とうなずきました。
老紳士は坂本加奈をカフェへと案内しました。