薄田正は息を飲み、すぐに彼女を拘束していた手を振り払い、一歩後ろに下がった。瞳の奥には複雑な感情が渦巻いていた。
「お前——」
深木雫は美しい顔を上げ、色っぽく微笑んで言った。「田中専務、恥ずかしくなったの?」
恥ずかしいわけねぇ!薄田正は心の中で叫んでいたが、女の誘惑的な態度に対して感情が複雑だった。
一方では彼女が自分の好きだった姿ではなくなったことを憎み、もう一方では彼女に引き起こされた甘美な想いを抑えきれなかった。
この女は本当に毒だ。
深木雫は顔に媚びた笑みを浮かべたまま、心の中で「くそったれ」と思った。
このクソ野郎、まだ帰らないの?
まさか本当に趣味が変わったの?
薄田正は立ち去ろうとしたが、理性が感情に負けてしまい、一歩前に出て彼女の顔を両手で包み、頭を下げてキスをした。
深木雫は凍りついた(ΩДΩ)
マジで趣味が変わったの!!
彼女は我に返り、彼を押しのけようとした。
薄田正は彼女の両手を頭上で押さえつけ、キスを深めた。
以前のような優しさはなく、直接的で乱暴だった。
どうせ彼女はもう以前のお人好しじゃないんだ、優しくする必要なんてない!
深木雫は彼のキスで息が詰まりそうになった。
以前のキスと比べて、この抵抗と侵略性を帯びたキスの仕方の方が、心の奥底の欲望をより刺激した。
薄田正も彼女と同じように、彼女を抱きしめながら呼吸が荒く低くなっていた。
深木雫は深く数回呼吸をして、少し息を整えると、艶めかしい唇を開いて言った。「田中専務がこういうのが好きなら、もっと早く言ってくれればよかったのに!」
薄田正の動きが固まり、彼女を見上げた。「お前——」
深木雫は何でもないような顔で言った。「どうせ私もあなたの体には満足してるし、私の下僕が一人増えても構わないわ。」
つまり、あなたが私の愛人になりたいなら、私は構わないということだ。
薄田正は額の血管を浮き立たせ、自分の声が歯を食いしばるのを聞きながら言った。「深木雫、お前は本当に汚い。」
そして、ドアを開けて大股で出て行った。
深木雫は力なく壁に寄りかかった。廊下には暖房がなく、寒さで震えた。
長い睫毛が瞳の奥の暗さを隠し、口角の微かな弧が消えた。「薄田正、お前こそが汚いんだ。」