第311章:私は彼を心配している

「彼の妹を奪おうとする男は、死を求めているようなものだ!!」

西村美香は、こんなに大勢の人が一度に来るとは思わなかった。瞳は暗く、唇を固く結んで黙っていた。

坂本加奈は野村渉を見るなり、すぐに尋ねた。「渉さん、手錠を外せますか?」

野村渉は頷いて、「試してみます」と答えた。

彼は黒川浩二の前に歩み寄り、ポケットからスプリングナイフを取り出し、その刃先を手錠の鍵穴に差し込んだ。

坂本加奈は野村渉の手にある刃物を緊張した眼差しで見つめ、心臓が喉まで飛び出しそうだった。

黒川浩二は彼女を見上げ、乾いて荒れた薄い唇がかすかに上がり、弱々しい声で彼女を慰めた。「大丈夫だよ、心配しないで」

坂本加奈は彼を見つめ、目に深い心痛が滲んでいた。

突然、手錠から音がして、開いた。

坂本加奈の目が輝き、声に喜びを隠しきれなかった。「開いた!」

黒川浩二は頷き、「うん」と返した。

野村渉はもう一つの手錠の解除に取り掛かり、すぐにそれも開いた。

黒川浩二が立ち上がろうとしたが、足に力が入らず倒れそうになった。

坂本加奈は急いで彼を支え、「浩二さん...」と焦りと心配の混ざった声で呼びかけた。

黒川浩二の体重が全て彼女にかかり、何とか立っていられた。

坂本加奈は押しつぶされそうな感覚があったが、一言も漏らさず、しっかりと彼を支えていた。

坂本真理子が大股で近づき、黒川浩二を支えながら不機嫌そうに言った。「お前、自分の体重くらい分かってるだろ?加奈を潰したらどうするんだ?」

黒川浩二は彼を横目で見たが、何も言わなかった。

坂本加奈は先ほど圧迫された腕をさすりながら、小声で言った。「お兄ちゃん、私は大丈夫」

坂本真理子は彼女を白い目で見て、「外の人を好きすぎる」と言った。

「まずは浩二さんを病院に連れて行こう」中谷仁は眉間にしわを寄せ、こんな時に口喧嘩している場合ではないと言った。

「自分で歩けるのか?お姫様抱っこが必要か?」坂本真理子は黒川浩二を横目で見ながら、彼をからかう絶好の機会を逃すまいとした。

黒川浩二はぼそっと一言、「消えろ」と言った。

「私が」と薄田正が近づいて来て、黒川浩二を支えた。坂本真理子が黒川浩二を地面に投げ出すのを恐れてのことだった。

手間が省けて坂本真理子は気楽そうに、上着を脱いで坂本加奈に掛けた。