第310章:全員出ていけ

画家にとって、両手は命よりも大切なものだが、彼女は自分の肩と腕でドアに体当たりをした。

黒川浩二は彼女の両手よりも大切なのだろうか?

坂本加奈の喉は何かに詰まったようで、一言も言葉が出てこなかった。目には涙が溜まり、頑固な表情で彼の手を振り払い、再びドアに体当たりしようとした。

この時、彼女は夢のことも、腕のことも気にしていなかった。ただ浩二が中にいることだけを知っていた。

浩二を守らなければならない、浩二を家に連れて帰らなければならない!

もし浩二に何かあったら、一生後悔することになる。

西村雄一郎は目が赤くなり、羨望と嫉妬と憎しみが目に浮かび、その場を立ち去りたい衝動に駆られた。

あの男のことなど、自分に何の関係があるというのか?

自分が原因ではないのだ!

二人が離婚でもすれば、自分にもチャンスが巡ってくる!