第309章:実の母

坂本加奈は足早に部屋へ向かった。

西村美香は我に返り、急いで叫んだ。「止めて!」

白川櫻は痛みを堪えながら坂本加奈を掴もうとしたが、坂本加奈は振り向いて棒を白川櫻に向かって振り上げた。

「どけ!」彼女は冷たく叱責し、その瞳には怒りと嫌悪が満ちていた。「私を止めようとしたら、命を賭けて戦うわよ!!」

「命を賭けて?」西村美香は嘲笑を浮かべながら、ゆっくりとした口調で尋ねた。「彼女が誰か知ってるの?」

坂本加奈は彼女の顔から白川櫻へと視線を移した。「誰だろうと関係ないわ!たとえ西村雄一郎のお母さんだとしても、浩二を傷つけようとするなら、同じように命を賭けて戦うわ!」

誰も浩二を傷つけることはできない!

「ふん。」西村美香は喉から冷笑を漏らした。「彼女は西村雄一郎の母親というだけじゃなく、黒川浩二の実の母親よ!」

坂本加奈は一瞬固まり、澄んだ瞳孔が急激に広がった。信じられない様子で白川櫻を見つめ、本能的に首を振った。「そんなはずない!」

彼女が浩二のお母さんなんてあり得ない!

「信じられないなら、直接彼女に聞いてみたら?」西村美香の瞳の奥には冷酷さと軽蔑が宿っていた。

坂本加奈は白川櫻を見つめ、その目から否定の言葉を求めた。

白川櫻は顔色を失い、その目には冷たさと嫌悪が漂っていた。冷ややかに言った。「できることなら、あの子なんて産まなければよかった。」

坂本加奈の心は何かに踏みつぶされたかのように重く痛んだが、棒を握る腕は下ろさなかった。

「あなたが浩二のお母さんかどうかなんて関係ないわ。私は浩二に会いに行く!」彼女は唇を噛み、道理の通じない子供のように頑固な声で言った。「誰が邪魔しても容赦しないわよ!」

西村美香は眉間にしわを寄せ、瞳に苛立ちの色が浮かんだ。「図々しい女ね。坂本加奈、10秒以内に出て行きなさい!」

「出て行くわ!」坂本加奈は答えながら、寝室のドアに向かって後ずさりした。「でも浩二と一緒にね!」

「今日はあの子を連れて行かせないわ!」西村美香は冷たく言った。

「絶対に連れて行くわ!」坂本加奈は片手で冷たいドアノブを握ったが、どうしてもドアは開かなかった。

西村美香は紅い唇に冷笑を浮かべた。「言ったでしょう、連れて行かせないって。」