第336章:結婚の日取りを相談する

月見荘。

黒川浩二は夜に自ら台所に立って夕食を作っていた。坂本加奈の腕前には及ばないものの、シェフの助けを借りて作った夕食は及第点に達していた。

坂本加奈は玄関に入るなり料理の香りを嗅ぎつけ、スケッチブックの入ったバッグを執事に渡すと、小走りで彼の側に寄った。「どうして急に料理を作ることにしたの?」

黒川浩二はエプロンを外して使用人に渡し、自然に身を屈めて彼女の香りを嗅ぐと、「時々サプライズを演出することが結婚生活を新鮮に保つ秘訣だと聞いたんだ」と言った。

坂本加奈は頬を赤らめ、執事と使用人が去ったのを確認すると、甘えた声で言った。「私たち結婚してまだそんなに経ってないのに、もう飽きちゃったの?」

「もちろんそんなことはない」黒川浩二は彼女の手を取って洗面所へ連れて行き、「叔母さんの言葉を思い出して、私たちはちゃんとした結婚式を挙げるべきだと思ったんだ。だから今夜は自分で料理を作って、両親にも来てもらって結婚式のことを相談しようと思って」

坂本加奈は一瞬固まった。結婚式?

でも自分は留学で交換留学生になるつもりだった。

「浩二、私――」

彼女が口を開いた瞬間、外から執事の声が聞こえた。「坂本さん、坂本奥様、どうぞお入りください」

黒川浩二は棚から手拭いを取って脇に置き、「先に両親の接待をしてくる。手を洗い終わったら水をよく拭いて」

坂本加奈は口まで出かかった言葉を飲み込むしかなく、彼の凛とした後ろ姿が洗面所から出て行くのを見つめるだけだった。

坂本健司と上野美里は黒川浩二に案内されてダイニングルームへ、しばらくして坂本加奈も来た。

「お父さん、お母さん……」

上野美里は手招きして自分の隣に座らせ、「あなたったら、そんな大変なことがあったのに私たちに知らせないなんて、私たちを心配死にさせる気?」

彼女が言っているのは誘拐事件のことで、坂本加奈は両親に隠すつもりだったが、西村美香の裁判が開廷され、メディアが情報を入手し、もはや隠しきれなくなっていた。

坂本加奈は素直に謝った。「ごめんなさい、お母さん。わざと隠していたわけじゃないの。ただ心配させたくなかっただけで、ほら、今こうして無事でしょう」