第339話:吐血するまで飲んだ

言葉が突然止まり、続きは語られなかった。

黒川浩二と薄田正は少し驚き、目を合わせて何かメッセージを交換したようだったが、何も言わなかった。

中谷仁と安藤美緒のことについて、彼らは知っていた。安藤美緒は死ぬまで中谷仁を許さず、会うことさえ拒んでいた。

中谷仁は表面上は平然としていて、安藤美緒の死が自分とは無関係であるかのように振る舞っていた。しかし、誰が確信できるだろうか。中谷陸人を見るたびに、彼のために青春を費やし、全ての愛情を注いだあの女性のことを思い出して、少しも心を動かされないなどということが。

「私は彼女を手放さない」黒川浩二は喉仏を動かし、酔った瞳に一瞬の冷たさが走った。

彼は坂本加奈に何でも与えることができるが、唯一受け入れられないのは彼女が自分から離れることだった。

3年どころか、1日も、1分1秒も許せない。

薄田正は彼が次々とお酒を飲むのを見て、ため息をつきながら首を振った。「誰が想像できただろうか。私たちの中で最も冷酷だった男が、最も恋に悩むことになるとは!」

中谷仁はグラスを置き、コート掛けから上着を取って立ち上がり、淡々と言った。「そろそろ帰らないと」

「まったく!」薄田正は本当に我慢できず、彼を軽蔑した。「今じゃ24時間体制の良いお父さんだな。少し遅く帰ったからって息子が死ぬわけじゃないだろう」

中谷仁は同意して頷いた。「彼は死なないだろうが、私が海外から輸入したばかりの魚は死ぬかもしれない」

薄田正:「……」

これは息子を育てているというより、まるで先祖を祭っているようなものだ。

中谷仁は個室のドアを開け、去る前に心配そうに彼に注意した。「彼を安全に送り届けることを忘れないでくれ」

薄田正は無邪気な表情で、「私も飲んでるから、どうやって送れば……」

言葉が終わらないうちに、ドアが閉まった。

「くそっ」薄田正は呪いの言葉を吐き、ソファの横にいる男が更にウォッカを半分以上空けるのを横目で見た。

彼は仕方なくため息をつき、「今夜は私のワインセラーの珍蔵酒を全部飲み干すつもりか?」

黒川浩二は答えず、自分の酒を飲み続けた。

何杯目か、何本目かもう覚えていない。ただ心の中で無数の蟻が噛み付いているような、また油で揚げられているような苦しみを感じていた。